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今の主人のことを、僕はよく知らない。

ただ両親と死別し身寄りのない僕を、屋敷ごと引き取るくらいには風変わりな女性だった。

彼女は何不自由無い生活を保証する代わりに、たったひとつの約束を守るように言った。
それは「独り立ちする前に、私の選んだ本を全て読了すること。」

最近になって気付いたことがある。
屋敷には多くの蔵書があるというのに、奇妙にも、選ばれた本は全て不幸な結末を辿る。

こんなBad Endばかりを与えて、一体なんのつもりだろう??


SP:「マクガフィン」さん
画像元:フリー画像サイトPixabay
[弥七]

【ウミガメ】20年08月10日 21:12

悪魔のゲームの、その先に。

解説を見る
解説
簡易解答:父(恋人)の死後、彼女は家庭の存在を知る。身寄りの無い息子を育てると決めた一方で自身も新しい人生を歩むべく、恋人の蔵書を通して思考を伝え「別れの言葉」を選んでもらう計画を立てた。独り立ちするまでという期限上、結末をBad Endに絞る必要があったから。

FA条件
・彼女は父親に家庭があると知らずに不倫していた。
・新しい人生に進むため、彼女は子供に「別れの言葉」を選んでもらうことにした。
・独り立ちするまでという期限上、ジャンルを絞る必要があった。(Bad Endの恋愛小説)

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貴方が大人になるのを心待ちにしていた、と言ったら
それは私の本心ではないのかもしれないわ。

でも私は嬉しい。

こうして今、全ての事の顛末を打ち明け…
私の用意した物語の結末を、やっと貴方と迎えることができるのだから。





十数年前。

私は、貴方に瓜二つの人と恋をして。
けれど思いを伝えたその日に、彼は突然姿を消した。
そう、何を言わずにね。

もし断ってくれていたら、今もこんなに苦しまなかったでしょう。
私は彼を探して、探して。やっと見つけた時には、既にこの世にいなかった。

残ったものは、このお屋敷と物心付く前の、幼い少年。
私はその両方を引き取ることにしたわ。
それからは、貴方の知っている通り。





今でも思う。これは彼が残した「呪い」ではないかって。
自分では抗えない未練の鎖が、私を過去に縛り付けているのではないか、と。





ねえ?ひとつだけ、私の願いを叶えてほしい。





私は、屋敷の書架からたくさんの本を選んで貴方に読ませた。
彼が触れた世界を、知識を、授けるため。

不幸な結末(Bad End)に気分を害したこともあったでしょう。
ごめんなさい、時間がなかったの。
貴方が大人になるまでに全ての本を読ませるなんて、不可能よ。





……今の貴方、あの頃の彼にそっくりね。どうか、





『彼の考える、一番心が傷つく言葉。』





特別に選んで、言って頂戴。
それを最後に、私達は新しい人生を歩みましょう。





楽しみだわ。貴方はなんて、言うのかしら?





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僕が大人になった、あの日。
彼女から告げられた願いに、自分が何を答えたのか今でも覚えている。





彼女が本を選び、僕が本を喰らう。
そんな生活の中で、書架から運ばれた物語は須く同じ結末を辿った。

積み重なる既読の山に、ふと疑問を投げかけたことがある。
どうして父の蔵書は、こんなにも不幸に溢れているのか??

問えども死人は語らず。

しかし僕が父の生き写しであるならば、答えはこうだ。





普通の結婚、普通の家庭。死ぬ直前まできっと彼の人生は普通で幸せだった。
彼は、そんな自分の人生に飽き飽きしていたのではないか?

睡蓮のように物語に身を浮かべ、今の自分と真逆の世界に浸る楽しみ。
そんな彼の夢が、この書架を生んだのだろう。

彼女にしてもそう。若かりし父の逃避行は、そんな破滅への憧れだったのだ。
堆く積もる蔵書のひとつと同じように、彼女を愛していた。

だから僕は、言葉を選んだ。










『僕は今でも、君のことを愛しているよ。』










ああ、どうして??
と泣き崩れる彼女に手を差し伸べながら僕は思った。





この言葉は、未練の鎖を断ち切るにふさわしい言葉ではない。





彼女は僕に、書架を通してひとつの人格を与えた。
もう、二度と消えない父の記憶だ。

僕はこの先もずっと、自分の肩越しに見る父と生きていくのだから、
2人とも新しい人生を歩むなんてことができるものか。

死して尚お互いを思い続けること。
それが、僕の考えうる一番の絶望だ。

千年の恋も醒めるような台詞なら、彼女はどんなに幸せな未来を歩めただろう。





…でも仕方ないさ。
ページを捲る僕の指先は、いつしかBad Endに染まってしまったのだから。





「貴方は書架の悪魔(Dantalion)ね。私を、腹の中へと閉じ込めた。」

彼女の言葉に、僕は不思議と笑みを浮かべていた。

(おしまい)(この物語は全てフィクションです。)


参考文献:
『熱海の宇宙人』(原百合子)
『三月は深き紅の淵を』(恩田陸)
物語:5票
全体評価で良質部門
トリック部門
物語部門
ルーシー[『★良質』]>>コメントなし
おだんご>>コメントなし
輝夜>>bad endの本ばかり読ませる」という不思議な行動に込められた彼女の想いに、心が抉られます。少しずつ状況が明らかになっていくにつれて、彼女の考えが180度変わって見え、彼女の想いに考えを巡らせました。そして、ついに明かされた真相は、想像を遥かに超えて美しかったです。心を打たれました。
運次第>>コメントなし
アルカディオ[4歳]>>コメントなし
納得部門