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「皆さん、今日お集まりいただいたのは他でもありません」
おんぼろのラジオから流れてきたのは推理ドラマの一幕だろうか。探偵役の男優が、事件のあらましを語っている。解決篇だ。
カメオはノイズ混じるその音声をのんびりと聞いていた。
そして事件のすべての謎を理解したとき、カメオはこう決意した。
気になっていた女性にプロポーズをしよう、と。
なぜ?
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潮風にさらされて錆び付いたラジオも、この港町の人たちには必需品らしい。
海洋の防衛の要だという。言葉も文化も分からぬ、大陸の港町に派兵されてから数年が経った。
戦争は終わったのか。我々は勝利したのか。内地に送った手紙は返ってこず、共にこの街に来た同僚は感染病で大半が亡くなった。
ここで暮らす内に一人、気の合う現地の女の子と出会った。カメリアというらしい。食事や住居の交渉で世話になった。話はあまり通じないが、心は通い合った。カメオは彼女のことがだんだんと好きになった。
昼下がりにラジオ番組を聴くのが趣味になった。何を言っているか分からないが、人の話し声がすると落ち着くのだ。
そこからさらに何年か過ぎたころだ。よく聴いていた番組が終わり、新しく推理もののドラマが始まった。殺人犯と探偵の対立を隔週で放送している。
その最終話、解決篇を聴き終えたカメオはある種の満足感と寂寥を覚えた。大変面白い内容だっただけに、次の週から何を楽しみにすればいいのか。
「どうしたの?カメオ」
「あぁ、いや。ちょっとラジオをね」
「あんたそれ好きねぇ」
「そろそろおじさんとこ行くよ。忙しいんだろ」
仕事はある。家もある。内地からの連絡は来ない。戦友は死んでしまった。だが自分の故郷はやはり......
ふと、今日のラジオのことが頭をよぎった。初回からずっと楽しんできた推理ドラマ。そこでカメオは気づいた。自分はとっくの昔に、この国の言葉を理解していたのだ。
前までは日常会話で手一杯だった。集中しなければ何を言っているのか分からなかった。だが今では、のんびりと聞き流していただけのラジオをカメオは楽しんでいたのだ。
それほどまでに、この国に馴染んでしまっていたのだ。
胸に秘めたカメリアへの想い。カメオは彼女に告白し、この港町に永住する決意をした。
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