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初夏。
放課後になると決まって友達とサッカーをしていたタクヤが、誘いを断って早々に帰るようになった。
それは、おばあちゃんの容態が悪いからなのだろう、とアカリは思った。
誰から聞いたわけでもなく、タクヤのおばあちゃんのこともよく知らない。
それでもアカリがそう思い至ったのは、タクヤの好きな人がアカリではなかったからだという。
いったいどういうことか?
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解答
過去にタクヤは、他の子に渡そうと書いたラブレターを誤ってアカリの下駄箱に入れてしまった。
その際の筆跡を覚えていたアカリ。
夏、教室に飾られた七夕の笹には、匿名で「ばあちゃんの病気が早く治りますように」と書かれた短冊が吊るされていた。
アカリは、特徴的なその文字がタクヤのものだとすぐに察した。
そして、少し前からタクヤが放課後になると足早に帰宅するようになったのは、きっとおばあちゃんの容態を思ってのことなのだろうと、アカリは推測した。
なが〜い解説
『ずっと前から好きでした。友達からでいいので、仲良くしてくれませんか。
タクヤより』
そんなラブレターを受け取ったのは、中学1年生の頃。
私の心臓は大きく跳ねた。
同じクラスのタクヤとはあまり話したことがない。でも優しい子なんだということは何となく知っていた。
流れるような、繊細で特徴的な筆跡。短いその文章を、噛みしめるように何度も何度も読み返す。
正直好かれる覚えもなければ、そんな素振りも見せなかった彼。半ば半信半疑で高鳴る胸をおさえつつ、翌日タクヤに声をかけた。
「あの、これ……」
周りに人がいないのを見計らってこっそり見せたラブレター。
タクヤは大きく大きく目を見開いた。
「えっ!?な、なんでアカリが持って……えっ?」
一瞬のことだったが、彼のその動揺っぷりは事態を察するには十分だった。
こんな漫画みたいなことがあるのか。
「あー……もしかして下駄箱、間違えた?返しとこうか」
この世の終わりかと思うくらいに気まずい空気が流れて、それ以来、お互いに目を合わせることすら出来なくなっていた。
そんなほろ苦い思い出を抱え、2年に進級。神様のいたずらなのか、またタクヤと同じクラスになった。
とは言っても、さすがに気まずさはそれなりに解けていた。
放課後になると決まってグラウンドでサッカーをする彼を、何となく目で追うこともあった。
結局タクヤがあの時告白しようとした相手が誰なのか、分からないままだった。
6月中頃から、タクヤは放課後友達の誘いを断って足早に帰るようになった。
塾でも通い始めたのだろうか、くらいに思っていた。
7月に入ると、教室に七夕の笹が飾られた。
毎年先生たちが準備しているらしく、生徒が自由に願い事を書けるように短冊が用意されていた。
ぼんやりと笹の葉を眺めていると、ふと一枚の短冊が目に止まる。
『ばあちゃんの病気が早く治りますように』
細いボールペンで書かれた、流れるような繊細で特徴的な筆跡。
私はそれが誰のものなのか、一目で理解した。
そして次に浮かんだのは、終礼後に足早に教室を出ていくタクヤの姿。
彼がここ最近放課後にサッカーをしなくなったのは、おばあちゃんの容態が悪いからなのではないか。
私は、「苦手な日本史の点数が上がりますように」と書かれた自分の短冊をくしゃりと丸めてゴミ箱に捨てた。そして、新しい短冊を一枚手に取る。
『あの子が笑って過ごせますように』
それはおばあちゃんの病気が治ることなのか、はたまた好きな子と両想いになることなのか、私には分からないけれど。
今になって思うことがある。
胸に焼きつけるように、何度も何度も繰り返し読んだあの文章。
指先でなぞった言葉。
私は彼の文字に、少しだけ恋をしていたのかもしれない。
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