「沈黙のコーヒー」のGoodトリック・物語・納得で良かったら1票分。全体評価で特に良かったら3票分Goodができます。
とある街の一角にある海亀珈琲店は、カウンター6席のみの小さな店だ。
マスターの関谷は寡黙な人物で、自ら話題を振ることはそうそう無い。しかし彼は聞き上手で、客の愚痴や他愛もない話に静かに耳を傾け、決して言葉を遮ることなく緩やかな相槌を打つ。そんな彼の人柄と確かな味が保証されたコーヒーは多くのファンを呼び、そのほとんどが常連客だった。
ある日、海亀珈琲店に無口な客が訪れた。
関谷は困り果ててしまう。
その無口な客が来店した日には、どうか他にも客が来るように……そんなことを願っていた。
関谷はべつに、沈黙に耐えられないような人物ではない。
だとしたら何故そんなことを願ったのだろう?
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それはほとんど一目惚れだったと言えるだろう。
夏が過ぎ去り木の葉が色付く頃、彼女はこの店を訪れた。
さらりと揺れる短い髪、色素の薄い瞳、注文を告げる時のやや低めの落ち着いた声。そして鞄から取り出し読み始めた文庫本は、関谷の好きな作家の作品だった。しかも一番好きなタイトルだ。
彼女の纏う空気感が関谷には妙に心地よく感じられた。理由は分からないが『合う』という直感。これまで経験したことのない感覚に、関谷は困り果てた。きっとこれが恋なんだろう。
関谷はほとんど無口ではあるが、客の話にはひとつひとつ丁寧に耳を傾けていたし、一人一人と向き合おうと努力していた。それは関谷が店を開いた時からずっと変わらず貫いてきた信念だ。
その日客と交わした何気ない話を、毎晩ルーズリーフに書き留めてファイルにまとめていくのが関谷の日課だった。名前を知らない客も沢山いるが、特徴などを書き残し、どの情報が誰のものであるかを丁寧に振り分けていった。
そして問題の彼女のページだが……ほとんど真っ白だ。注文内容、読んでいた小説のタイトル……書ける情報と言えばそれくらいしかない。関谷が自ら話題を振らないように、彼女もまた、自ら口を開くことはなかった。しかし関谷は彼女に興味を抱いていた。彼女のことを知りたい、その思いばかり募っていく。しかし二人の間には形式的なやりとりしか生まれなかった。
関谷はまた困り果てた。彼女の話を聞きたいが……どう話しかけたら良いものか、そもそも話しかけて良いものか、わからない。
数日後。店を訪れた彼女がコーヒーを飲んでいる中、別の客が来店した。彼はわりによく喋る方で、初対面の彼女に対しても構わず話しかけた。
「君、あまり見かけない顔だな。新規のお客さん?」
「あ、はい。最近ここを知って、気に入って通うようになりました」
「へ~、そうなんだ!本が好きなの?」
「ええ、よく読みますね。父が読書好きなので、その影響もあって」
ぽつりぽつりと溢れ出す彼女の情報。関谷は平然を装いながらも、興味津々で耳を傾けていた。何だか盗み聞きしているようで罪悪感が無いわけでもないが……。
カウンター6席、その狭いスペースで生まれる会話。彼女が他の客と何らかの言葉を交わした日には、彼女のページに少しずつ情報が書き足されていった。
知れば知るほど、また知りたくなる。そして自分のことを知ってほしくなる。人間の欲求には果てがないな…と関谷は苦笑し、ルーズリーフを閉じる。
そして数日後。
「……あの、実は僕もその本、すごく好きなんですよ」
情けなくも震える声で関谷が一歩踏み出すのは、また別の話ーー。
要約
無口な客に恋心を抱いた関谷。
彼女のことを知りたいと思うが自身から話題を振ることが出来ず、また彼女も自ら話そうとしないため、彼女のことを知るきっかけが無かった。
しかし別の客が彼女に話しかけて彼女がそれに答えると、間接的に彼女の話が聞けるため、他の客に同席してほしいと思った。
物語:2票
物語部門
ぺてー>>
丁寧な問題文にヒントが散りばめられています
喫茶店のようにおしゃれな物語です