仮想現実技術が発達した、ある未来。
「ユウキ、起きなさい! 学校に遅れるよ!」という声で、アクタは目覚めた。
白井ユウキは、ドジな女子高生だ。
慌てて階段から降りるときに転び、体中を強く打つ。
涙のにじむ目でテーブルにつき、コーヒーを啜ると、熱さで飛び上がる。
家族が心配そうな顔をしたからか、彼女はへらへらと笑った。
アクタは、あの時あんなに遊ぶのではなかった、と思った。
何故か?
★本出題では、仮想現実技術の発達具合および仮想現実空間の出来事は、非現実要素に含みません。
テーマ:『非現実要素はありますか?』と質問したくなる問題 キーワード:仮
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解説概要:
アクタは白井ユウキを惨殺した犯人であり、現在「犯罪被害者の受けた苦痛を、仮想現実で加害者がそっくりそのまま受ける」刑を受けている。
階段から落ちたりコーヒーで火傷しかけた時、ユウキが自分の想定よりも痛みに強かったことを知り、そんなユウキが苦しむほどの痛みをアクタ自身が与えたことを後悔している。
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仮想現実技術が発達した、ある未来。
人間の感覚を仮想空間で再現することが可能になり、リアルな感覚を任意に感じる/感じさせることが出来るようになった。
この技術革新は、他者に理解させづらい感覚の伝達を可能にした。一般への普及を目標に、教育など他者理解の必要な分野で利用され始めた。
技術利用の中で、他者の人権を損なう行為の予防と戒めとして、刑罰に「犯罪被害者の受けた苦痛を、仮想現実で加害者がそっくりそのまま受ける」ことを含むようになった。
被害者の再現体に加害者の感覚が入った状態で、加害の状況を再現するというものだ。
アクタはそんな世に現れた連続猟奇殺人犯。
何故被害者たちを口に出すも悍ましい目に遭わせたのか、という質問に、「ひどく痛がる姿が面白かったから」と供述した。
彼が被害者たちの痛みを受けることは、当然誰も止めようとしなかった。
アクタは考えが浅かった。
被害者が痛みに耐えられなかったのは、単に弱かったからだろう、と思っていたのだ。
そっくりそのままの痛みだとしても、自分なら耐えられる、と。
刑は、被害者の日常が加害者によって奪われたことを強調するため、加害より前の時間から…つまり生活シーンから始まる。
被害者の一人、白井ユウキの朝を通じ、アクタは間違いに気が付いた。
アクタ自身が悶える程度に床は硬く、火傷感を覚えるほどコーヒーも熱い。
ユウキは笑ってそれらを流したのだ。
そのユウキが泣き喚き、助けを求め、最終的には自分を殺すように頼んだ。
自分はどれほどの痛みを与えていたのか?
……自然と、アクタは後悔していた。
面白いからと言って、あの時あんなに人間で遊ぶのではなかった、と。
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