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先日事故で両親を亡くしたカメオは、気を紛らわすために一人で登山に向かったのだが、その山で起きた雪崩に巻き込まれてしまう。

カメオから登山に行く旨を聞いていた幼馴染のカメコは、雪崩発生のニュースを観て血相を変えた。
カメオに密かな恋心を抱く彼女は、ただひたすら彼の無事を祈るしかなかった。

次の日、自力で電波の届くところまで下山したカメオから無事を知らせる電話があったことを聞いたカメコは、深く深く安堵した。
しかしその一方で、「倒れていたカメオを救助隊が助け出していたらなお良かったかもしれない」とも考えた。

一体なぜそんな風に思ったのだろう?
[「マクガフィン」] [☆☆編集長]

【ウミガメ】22年09月19日 21:02
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『解説』

下山したカメオが真っ先に電話をした恋敵のウミコから彼の無事を聞いたカメコ。
カメオ本人ではなく救助隊からの連絡であれば、彼が誰よりも無事を伝えたい相手、声を聞きたい相手がウミコであることを確信せずに済んだから。




『ストーリー』

物心ついた時から彼はお隣さんで、当たり前に遊んで、当たり前に笑い合って、当たり前に大好きだった。

みんなと一緒に遊んでいても、目に留まるのはいつも彼。おにごっこなら真っ先に追いかけ、かくれんぼなら真っ先に探した。

もう忘れちゃっただろうけど、結婚の約束だって何度もしたんだ。

小学生になって、中学生になっても私たちはずっと一緒。直接言葉にはしなくなったけど、私の気持ちは変わらなかった。



2人の関係が変わり始めたのは、きっとあの子が現れたから。

「隣町の中学校から転校してきました」
顔を上げてそう言ったあの子は、少しだけ背が低くて、少しだけうっかりしていて、そしてとってもかわいかった。

なぜかはわからないけれど、やたら私と気が合って、気づいたら彼と遊ぶたびにあの子も誘うようになっていた。

彼と私は毎日会って、予定が合えばあの子も来て。3人でキャンプに行って、2人で遊園地に行って、3人で同じ高校に行って。
そんな距離感だったから、大好きな彼と2人きりにもなれたし、仲良しなあの子とも楽しく笑い合えていた。

でもちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、もしかしたら彼はあの子が好きなのかなぁって、そんな風にも思ってた。

あの子といる時は口数が増える気がする。
あの子と遊ぶ日は少しおしゃれな気がする。
あの子が帰る時は後ろ姿を長く見つめてる気がする。

全部「気がする」でしかないけれど、彼の両親の次くらいにずっと近くで見ていた人の「気がする」なんだ。



だからあの子だけ遠くの大学に行くって聞いて、正直少し安心した。

「あの子が好きなの?」って訊かなくても、
「あなたが好きなの。」って言わなくても、
今まで通り誰よりも仲が良い幼馴染のままでいられそうだったから。

私と彼はそれぞれ別の大学に行って、別の会社に就職した。
さすがに毎日会うことはできなくなったけれど、地元から離れたわけでもないから、たまの休みに遊んだり、どうでもいいことで電話したり。

半年に一度しか帰ってこないあの子のことなんて、そのうち忘れてしまうんじゃないか。
そう思えるくらいに平穏で、素敵で、幸せな日々だった。



彼の両親が亡くなった。

その訃報はあまりに突然で、家族ぐるみでの付き合いだった私にとっても受け入れがたい現実だったけれど、それ以上に彼の憔悴した姿は見ていられなかった。

またいつもの太陽のような笑顔を見せてほしい。
心からそう思った私は、葬儀も終わり、身の回りの整理も落ち着いてから彼に何か気分転換をしないかと持ちかけた。

いつしか登山が趣味になっていた彼は、じゃあちょっと行ってくるわ、と努めて明るくしたような口調で告げ、大荷物と共に一人で山へと向かった。


その晩だった。

彼は何日くらいで帰ってくるのかしらと考えながら何気なく流していたニュースから、今朝耳にしたばかりの山の名前が聞こえてきた。

・・・・山で大規模な雪崩が発生しました。今日もたくさんの登山客がおり、雪崩に巻き込まれた可能性が高いとのことです。その影響で近隣に住む住民の・・・・


さっ、と一気に体温が下がった気がした。
間違いなく彼が今日登っている山だった。

慌てて彼に電話をする。繋がらない。
かなり深く高い山だから、電波が届かなくてもおかしくはない。しかし彼が1日目の夜までに目指すと言っていた山小屋は、ぎりぎり連絡がついたはずだ。やはり彼も巻き込まれたのだろうか。いや電波塔が壊れただけかもしれない。

焦る気持ちを抑えられず、警察に電話した。彼の親戚に電話した。あの子にも、電話した。

彼の両親が亡くなった時もあの子に連絡はしたけれど、どうしても外せない仕事があるとかで葬儀に来られず、電話で彼にお悔やみと元気づける言葉をかけることしかできなかったらしい。
登山に行くことも「気分転換してくる」程度にしか聞いていなかったようで、おっとりした彼女には珍しく、取り乱していた。

また何かわかったら連絡するね、と言って電話を切った私は、ただひたすらに彼の無事を祈るしかなく、そのまま一睡もできずに朝を迎えた。


ニュースでは救助隊による捜索が開始され、すでに何人も救助されたことが報じられていたが、その中に彼の名前は見当たらない。
巻き込まれずに済んでいたとしたら、これだけ騒ぎになっているのに誰にも連絡しないのも変だ。

最悪の想像が脳裏にちらついたまま、夕方を迎えた。

もう一度警察に連絡しようか。
そう思って携帯を手に取ったその時、着信音が響き渡った。

彼からだ!

そう期待しながら画面を見て、それがあの子からの電話であることに気づく。

彼女も我慢できずに連絡してきたのかな、そんな風に考えながらもしもし、と応えると、途端にあの子の大声が聞こえた。


「無事だった!無事だったよ!!」


え、と一瞬思考が停止した。
どういうことなのっ!と、勢いごんで尋ねると、彼女は荒い息を吐きながら、彼から電話があって…と今しがた起きたことを語ってくれた。

あの子の話によれば、彼は雪崩に巻き込まれて滑落しそうになったものの、大きな怪我もなく荷物も無事だったらしい。
しかし予定の道からは大きく外れ、電波も繋がらないところで一晩野宿するしかなくなった。
そして今日、道を探して右往左往しながらも、なんとか自力で下山し、彼女に連絡したようだ。
ひとまず病院に行くから、みんなには彼女から伝えてほしいと、そう言っていたらしい。


ほっ、と、本当にそう声に出そうなくらい、安堵した。

彼が無事だった。
その事実だけでその場にへたりこみそうなくらい、心からの安堵だった。
よかったよぉ…そう涙声をあげるあの子に、本当にね、と応えて電話を切ってから、頬を伝う涙をそっとぬぐった。

大好きな、誰よりも大切な彼。
彼が生きていてくれるだけで、こんなにも嬉しい。彼が当たり前に幸せなら、他にはもう何もいらない。


いらない、けど・・・


けど、やっぱり私じゃないんだね。


胸のつかえが一気にとれて、その分私の心のやわな部分が顔を出す。

昔から隣にいて、ずっと隣にいて、今も一番近くにいる。
それでも君が選ぶのは、私じゃなくて遠くのあの子。

辛いことがあって、気を紛らわそうとして、それでもまた大変な目に遭った。

そんなとき君が真っ先に声を聞きたいと思うのは、安心させたいと思うのは、どうしようもなくあの子なんだね。


あぁ、どうせなら、と思う。
どうせなら、彼が倒れていればよかったのに。
気を失っている彼を救助隊が見つけて搬送すれば、きっと彼の親戚に連絡が行くのでしょう。
ご両親が亡くなった時に、私の親の連絡先も登録した気もするし。

少なくとも、彼があの子に電話して、あの子が私に電話して、私がこんな気持ちになる、なんてことにはならなかったでしょう。

彼にとっての一番は、あの子かもしれないわって、恐れているだけで済んだのに。負けを認めずに済んだのに。

彼の無事だけを素直に喜べない、こんな自分が嫌いだ。


フローリングの床に頬をつけると、本棚と壁の隙間がやけに暗く見えた。

君は私の気持ちに気づいているのかな。
あの子は君の気持ちに気づいているのかな。
あの子は一体君のこと、どう思っているのかな。

ねえ、私の方がずっと前から好きだったんだよ。

たぶん君が思っているより、ずっと前から。


君との関係を壊したくなくて、あの子が気になってる君を困らせたくなくて。

ずっとずっと、この恋心は隠してたんだ。


ねえ、もしこの想いを打ち明けたら、君はどんな顔をするのかな。困ったように笑うのかな。
本音の自分はまだ、どこかに隠れてた方がいいのかな。

手に入らないとわかっても、君に会いたくてたまらない。伝えたくてたまらない。

ねえ、ずっとしてきた我慢は、もうやめてもいいかい。



ねえ、





もういいかい。




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