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吹奏楽部の1年生のカメコは、同じく1年生の野球少年ウミオに思いを寄せている。中学の頃、野球部のマネージャーとして訪れた大会でウミオの姿を見て、一目惚れした。ウミオを追うように同じ高校に入ったが、もちろんウミオはそんなことは知らない。
しかしウミオの先輩が調子よく活躍しすぎるせいで、ここのところウミオがバッターボックスに立つ姿が見られなくなってしまっていて、カメコにはそれが少し不満だった。
そんなカメコが、最近吹奏楽の練習に集中して取り組むようになったのは一体なぜだろうか。
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簡易解説
カメコはいつも、吹奏楽部の練習場所である音楽室の窓から、野球部の様子を見ていた。しかし野球部OBのマクガフィンが大記録を達成したことで、それを祝う垂れ幕が校舎にかかり、音楽室から外の景色が見られなくなってしまった。
その結果カメコは外の景色が目に入らなくなり、今までより吹奏楽の練習に集中できるようになった。
以下長い解説
あれは、一目惚れだった。
中学三年生の夏。私がマネージャーとして所属していた野球部は、悲願の県大会出場を果たした。県大会の成績は散々なものだったが、そこで私は、ウミオに出会った。自販機に飲み物を買いに行く途中、打球のイメージトレーニングをしているウミオの姿を見た。野球にひたむきな彼の姿は輝いていて、まるで夏の太陽のようだった。
あの日から、私の世界はウミオを中心に回り始めた。
ウミオについて、県選抜に選ばれるくらい優秀な選手だと聞いたことはあった。だけど、それ以外何も知らなかった。だから私は、今にして思えば少しストーカーじみていたと思うような方法で、ウミオについて調べた。彼が既にスポーツ推薦で高校を決めているという情報を仕入れるまで、ほとんど時間はかからなかった。
彼に近づくためだと思ったら、勉強も苦ではなかった。夏からの追い込みで学力を上げた私は見事同じ高校に合格し、中学でそうであったように野球部のマネージャーになろうと、野球部の部室のドアの前に立った。
野球部の部室では、ウミオはすぐに新しい仲間と打ち解けていた。そして、新入生と思われる女の子達がそんなウミオを囲んでいて、彼も満更でない様子だった。考えてみればあたりまえの話だった。あんなに強くてかっこいいウミオに、私の他にファンがいないはずがなかった。
私はそっと野球部から離れた。夢に向かってまっすぐなウミオは眩しすぎて、これ以上近づくと、炎に誘われた夏の虫のように死んでしまいそうな気がしたからだ。
結局、私は吹奏楽部に入った。勧誘していた先輩が気さくな人で、楽しそうだと思ったのが理由の一つ。もう一つは、甲子園のアルプススタンドに立ってみたい、そう思ったからだ。
吹奏楽部の練習は厳しくて大変だった。野球の強豪校であるこの高校は、同時に吹奏楽の強豪校でもあり、高校で吹奏楽を始めた私は周囲のレベルの高さに圧倒されるだけだった。でも、吹奏楽部に入って良いこともあった。練習場所である音楽室の窓からは野球部のグラウンドがよく見えた。ウミオがまっすぐな目をしてバッターボックスに立つ姿を、遠くから眺めていることができた。
ウミオが太陽だとすれば、私は惑星だな。そう思った。土星のような、確固としたものがない、虚ろな惑星。ただ太陽を眺めることしかできない、哀れな惑星。
そんな身の程をわきまえた毎日に満足していたはずなのに、ある日から、私は太陽を眺めることすら許されなくなった。
この高校の野球部のOBで、今や日本中の誰もが知るスーパースター、マクガフィンが日米通算1000安打という大記録を達成した。『祝 マクガフィン選手 大記録達成!』と校舎にはそれを祝うための垂れ幕がでかでかと掲げられ、音楽室からは外の景色が見られなくなってしまった。
当然、練習中にグラウンドを眺めることはもうできない。どうしてそうやって私の楽しみを奪うの? 私は会ったこともないマクガフィンに腹さえ立った。
それでも、私は練習を休むことはなかった。今更吹奏楽を辞めても他にすることもないし、部活のみんなのことは嫌いじゃなかった。
グラウンドを眺める時間が減ったことで、前よりも真面目に練習に打ち込めるようにもなった。
「カメコちゃん、前よりも集中して練習に取り組めるようになってきたね。いいね、その調子!」と先輩にも褒められた。悪い気分はしなかった。
強い風が吹いた。窓の外で垂れ幕がはためく。
「君も輝いてみなよ」
マクガフィンにそう語りかけられた、ような気がした。
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トリック部門
ぺてー>>
そもそものアイデアが面白い上に、状況をきれいに誤認させる問題文となっていてさらに面白い!