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曰く、『人と入れ替わることができる口紅』というのは、使用者が自身の唇に付着させた上で任意の相手とキスをすると、その相手と身体を入れ替えられるというもの。

そんな口紅を売る怪しげな路頭商人である私の元に、冥沙という女性がやってきた。

どうしても、と懇願する彼女を前に、渋々私はその口紅を売りつけた。

去り際の彼女にターゲットを尋ねた私は、峰子という名前を聞いた。誰からも愛される天真爛漫な性格が近所で有名だったその名前に聞き覚えがあった私は、彼女を引き留めなかった。

ここで渋々私が売りつけた口紅を使うことを彼女がためらったのは、峰子につけられていた口紅があまりにも赤々として輝いていたからだという。

そのことでなぜ、彼女はためらったのだと思う?
[みさこ]

【ウミガメ】23年07月26日 23:10
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要約
問題文冒頭で私の元に現れた冥沙は、冥沙と身体を入れ替えられた峰子の精神を持つ。問題文以前に、冥沙と峰子は入れ替わっていた。
峰子は元の身体に戻るため、私から口紅を手に入れたが、冥沙が手にした峰子の身体には、口紅が赤々と塗られていた。
すっかり冥沙によって使いならされた峰子の身体に今更戻ったところで、元の自分の生活が再び手に入るのか、自ら化粧もしたこともなかった峰子は、元の自分の身体に戻ることをためらった。

解説

やっと見つけた、という大声。その声の方を振り向くと、見覚えのある顔が目に入った。

彼女は確か、冥沙という女性。世界を恨むような怒りに満ちた表情を見つけ、半年前に口紅を授けてやった女性だ。

そんな彼女が、私を探していたという。何の用かと思えば、『人と入れ替わることができる口紅』を売って欲しいと抜かした。

彼女の要求を、私は突っぱねる。一度口紅を授けた者に、再びそれを売りつけるような真似はしない。それでは面白みに全く欠けるし、彼女を信頼した私がバカだったことになる。

しかし彼女は、どうしても、と食い下がる。鈍感な私でも、ここで漸く判然とした。半年前に見た彼女の顔は、厚化粧に陰険な憎悪を浮かべたものだった。今の彼女は、それを全く裏返した表情をしている。

やはり、私の信頼した彼女は、しっかりとあの口紅を半年前に使用していたのだろう。今この身体にいるのは、冥沙ではない。半年前に彼女に口付けをされた、どこかの不運な人間だ。

それでも基本、私の信条に変わりはないのだが、彼女の、いや、本当に『彼女』と呼べる存在かすら分からないが、彼女の気迫に押され、渋々件の口紅を売りつけることにした。これはこれで興味深いことであるから、見逃してやることにする。

興味本位でターゲットを、去り際の彼女に聞いた。彼女は迷いのない表情で素直に、菊池 峰子という名前を明かした。

誰からも愛される天真爛漫な性格がかつて近所で有名だったその名前には、聞き覚えがあった。確か峰子は、ついこの間高校に進学したばかりだったはず。半年前に性格が一変し、遊びに呆け親とも仲違いを起こした、今や凶暴な反抗期の少女。その変貌ぶりは近所でも有名だ。その真意に、私には判然と合点がいった。

目の前に冥沙という女性。この女性こそ、誰からも愛される、天真爛漫な菊池 峰子なのだろう。

起こりうる残酷な未来に笑みを浮かべて期待しつつ、私は彼女を引き留めず見送った。

——————

その後私は、幸運なことにその残酷な未来に立ち会った。

人気のない路地裏。袋小路には、紫煙を奔放に撒き散らす男女集団の姿がある。それを遠くから絶望の表情で見つめる女性こそ、私が先日会った『冥沙』、いや峰子その人だった。

彼女が半年間をどう過ごし、自分の身体の行方をどう追跡したのかは知れないが、元の身体に戻ることへの強い決意だけで動いていたことだけは確かだろう。

そんな峰子が、ずっと渇望した自分の身体を目の前に、絶望している。

私はこんな風説を耳にした。豹変する前の菊池 峰子は、まっすぐ真面目に生きてきた可憐な少女であり、自分で化粧もしたことがない子だという。

そんな彼女が、自分の唇に赤々と塗られた口紅の厚化粧を目の前にしている。高校生には不恰好な厚化粧は、もはや『冥沙』の精神によって散々にその身体が使いならされていることの決定的な証左に映る。

半年の年月で、無責任にも変貌してしまった『自分』の境遇を前に、峰子はその『人と入れ替わることができる口紅』を使用することを深くためらったのだ。

冥沙によって突然奪われたであろう自分の身体を必死に求めた半年間。それを、身体を元に戻すだけで結実させることはできるのか。目の前で男女混じりにはしたない光景を体現する自分の身体に、今更戻ったところで、自分が取り戻したかった『自分』は戻ってくるのか。






「それでも、私は…。」

小さくも確かに呟かれた声を聞いて、私は不満を感じながらもその場を立ち去った。
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