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サスペンス・ロジック」のGoodトリック・物語・納得で良かったら1票分。全体評価で特に良かったら3票分Goodができます。
「ヤヨイ〜!また玄関の掃除、忘れてる!だから朝のうちにやっとけっていっつもいつも言ってるだろう!!」

年度末の厄介な仕事をいなしてきた夕方、妻への文句を並べながら靴を脱いだ俺は、彼女の返事がないことに疑問を抱く。健診かどこかに出かけているのか…とリビングに来たところで、衝撃的な場面に遭遇した。

帽子を真深く被って棚を漁る男。強盗だった。

俺を見つけるや否や、持っていた小さなナイフで脅しながら、金目のものの場所を尋ねる男。恐怖に駆られ言いなりになるが、目当ての金品をすぐに探し当てると、男は置いてあった花瓶で俺を殴りつけた。

壁に激突しながら、俺は倒れ込む。視界の端で逃げ出す男を捉えるが、彼を止める術はなかった。

もう一つ視界に映ったものがあった。俺が壁にぶつかった衝撃で、リビングに飾ってあったカレンダーの画鋲が外れていたのだ。側には、当の画鋲とカレンダーが転がっている。

それに気づくと、朦朧とした意識の中、俺は必死に左手のひらを握りしめた。

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さて、「俺」が手のひらを握りしめたのはなぜか?
[さなめ。] [ラテアート]

【ウミガメ】23年10月06日 22:54
解説を見る
リビングの棚に置いてあった花瓶で殴られ、俺は生死の境にいる心地がした。今まで受けたことのない衝撃。頭の後ろで、血が滲む感覚がする。

割れるように痛い頭。どこから侵入してきた?なんて勝手なやつだ。次々に思考が乱れ、どんどん意識が遠ざかっていく。

そんな中で、俺は壁から滑り落ちていたカレンダーの存在に気づいた。俺がぶつかった拍子に画鋲が外れたのか、その画鋲の行方は知れない。

年度末の3月を指し示すカレンダー。殴られた為すがままに倒れ込んでいた俺は、左手を頭の横に位置させ、図らずもそのカレンダーを指差していた。

3月、ヤヨイ

俺は必死に、しかし緩慢な動作でやっとのこと、その左手を握りしめ、指を差す姿勢を崩した。

今にして思えば、もし俺があのまま殴られたショックで亡くなっていたら。そこまでいかなくとも、証言できないほどの重傷となっていたら。家にあった花瓶で夫を殴ったとして、真っ先に疑われたのは妻のヤヨイだろう。帰った直後、俺はヤヨイを怒鳴りつけていたし、ヤヨイは普段、夕方や夜にはいつも家にいる。夫婦喧嘩が起こっていたと勘違いする隣人がいて自然だ。

その上に、俺があのカレンダーを指差していたら、どうだろう。訪れた警察か何かは、それをいわゆるダイイングメッセージだと思うんじゃないか。朦朧とした意識で、必死に妻のヤヨイへの怨嗟をぶつけた、なんて。

第一発見者になるのも、もちろんヤヨイだ。そういう人間が疑われやすいのも、俺は知っている。あのまま俺の息の根が止まっていれば、ヤヨイが捕まっていたかも知れない。

尤も、強盗に襲われたパニックと朦朧とした意識では、生への執着に必死でここまでは考えていない。ヤヨイを指差していたことに辛うじて気づいて、そうじゃない、俺を殴ったのはヤヨイなんかじゃない、と無意識に否定していただけだ。その一心で、必死に人差し指を握ったのだった。


なんて、気を落ち着かせるための笑い話を病室でしたら、「ミステリーの読みすぎよ」と、ようやく落涙も引いてきたヤヨイの震える声に一蹴された。年度末を凌ぐ俺を労おうとスーパーに出かけていた帰りだったヤヨイは、件の強盗と鉢合わせ、女性だからと油断していたそいつを得意の柔道で黙らせたのだという。全く妻には、いつも頭が上がらない。


要約:
倒れた姿勢で図らずも、「俺」はカレンダーの3月を指差していた。生死の境で、所謂ダイイングメッセージのように妻のヤヨイを指していることに気づいた「俺」は、ヤヨイに殴られたという間違ったメッセージを残さないために、必死に手のひらを握りしめて指を差す姿勢を崩したのである。
物語:3票納得:7票良質:3票
全体評価で良質部門
アカミドリ>>コメントなし
トリック部門
物語部門
アカミドリ>>コメントなし
異邦人>>コメントなし
日本語勉強中のL>>コメントなし
納得部門
アカミドリ>>コメントなし
布袋ナイ[向上意識]>>コメントなし
きっとくりす>>コメントなし
靴下[バッジメイカー]>>コメントなし
異邦人>>コメントなし
ほずみ[ますか?]>>細かいクルーに加え、意識がもうろうとする中で取る行動として心情も相まってとても納得できました
「マクガフィン」[☆☆編集長]>>さりげないクルーが素敵ですgood