「泣いた鬼嫁」のGoodトリック・物語・納得で良かったら1票分。全体評価で特に良かったら3票分Goodができます。
春。
難病を患い、余命半年と宣告されていたカメオ。
誰もが諦めかけていたその病が、奇跡的に回復の兆しを見せ始めた頃──。
カメオが自身の妻のことを「鬼みたいだな」と思ったのは、いったいなぜ?
多分大丈夫ですが、微要知識かも。本日いっぱいで〆!日付変わるまで常駐します。
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A、来年の話をしたら妻が笑ったから。
春の柔らかな陽射しが、病室の白いカーテンを揺らしている。
カメオはベッドに横たわりながら、窓の外に広がる桜をぼんやりと眺めていた。
医師から「余命半年」と告げられたあの日から、妻の笑顔はどこか遠くへ消えてしまっていた。
無理に明るく振る舞おうとするたび、その目尻には涙が溜まっている。
心の底から笑えない日々が、ずっと続いていた。
しかしこの春、奇跡が起きつつあった。
検査の数値は驚くほど改善し、主治医は穏やかな声で言った。
「この調子なら、元の生活に戻れる可能性が十分にありますよ」
そんな中、病室のドアが静かに開き、妻が入ってくる。
いつものように花瓶に新しい花を挿し、そっと微笑む。だがその笑みは、まだどこか儚げだった。
カメオはゆっくりと体を起こし、窓の方を指さした。
「見て。あの桜、今年は本当にきれいだね」
妻が頷き、そばに寄ってくる。
二人は並んで桜を眺めた。
淡いピンクの花びらが、風に舞っては病室の窓辺に寄り添うように落ちていく。
カメオは小さく息を吐いて、ぽつりと言った。
「……来年の春はさ、二人でお花見に行けるといいな」
一瞬、妻の肩が震えた。
「来年」という言葉。
ずっと口に出せなかった、触れてはいけないはずの未来の話。
妻の目がみるみる潤んでいく。
そして、堪えきれず、ぽろぽろと涙をこぼしながら、心の底から溢れるような、泣き笑いの表情を浮かべた。
その瞬間、カメオの頭に古いことわざがよみがえった。
「来年のことを言えば鬼が笑う」
「来年の話」を聞いて、こんなに嬉しそうに、泣きながら笑うなんて。
まるで──思わず、言葉が口をついて出た。
「……鬼みたいだな、お前」
妻は目を丸くしてカメオを見た。
「は……? 鬼?」
憤ったような、でもどこか照れくさそうな顔。
すぐに頬を膨らませて抗議する。
「ひどい! せっかく泣いて喜んでるのに鬼って何!?」
しかしその声は、どこか弾んでいた。
怒っているふりをしながらも、目尻にはまだ涙が光っていて、口元には隠しきれない笑みが広がっている。
カメオは苦笑しながら、妻の手をそっと握り返した。
「……来年、絶対お花見行くからね。」
「ああ。約束な」
病室に満ちる春の光と、桜の香り。
二人の間に、ようやく「来年」という言葉が、優しく根を下ろし始めていた。
「来年のことを言えば鬼が笑う」
意味:将来のことは誰にも予測できないため、あれこれ計画しても意味がない、という諺。
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