「21の天使の蒸留酒」のGoodトリック・物語・納得で良かったら1票分。全体評価で特に良かったら3票分Goodができます。
昔、男は警察の目を盗んで深夜の駅のホームに侵入し、設置されたピアノを演奏する事を日課としていた。
ある日彼は酒場に行くと、一番安い蒸留酒を注文した。
そして一口飲んだところでマスターを呼びつけた。
「すまんが、これはなんて名前だ?」
「…これは、La grâce de Dieu(神様のお恵み)です。」
それをきいた男は、グラスを虚空に向かって突き上げた。
一体なぜ?
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解説
簡易解答:ホームレスの老人は駅のピアノを使って孤児に音楽を教えていた。時を経てピアニストとして大成した少女の曲に出会い、彼女の人生を祝福したのだった。
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最初は単なる憂さ晴らしだった。
日がな1日迷子を預かったり、ろくでもない紛失届の裏でせっせと五目並べをしている奴らのために、神が仕事を与えてやろうというのだ。(自分の風貌を見れば、誰だって神様と勘違いするだろう)
こんな俺でも、昔は人間に音楽を教えて金をもらったこともあった。そんな俺様がどうして、こんなに落ちぶれたのだろう。
きっと酒が足りないせいだな。
深夜の21番ホームでは、都会の喧騒も、俺を嘲り罵しる世間も全ては無に伏せる。
老人は汚い鹿撃ち帽を外し、それを座布団代わりに椅子へ座った。
すると、今日はおかしなことが起こった。
鍵盤に手を置くと、文字も読めなそうな子供がひとり、ピアノの前に立つではないか。
鬱陶しくも片目で観察していると、なにやら演奏に合わせて指を必死に動かしている。俺の動きを真似しているのか?なんだってそんなことを??
ははあ、さては。
ピアノを買ってもらう親も金もない孤児が、興味本位で俺に付いてきたんだろう。
ふん、勝手にするといい。と俺は思った。
好き勝手に弾いていた男は、いつの間にか少女を椅子に座らせ、しまいにはブルグミュラーの25の練習曲を一通りやる羽目になっていた。
お前は若い、きっと人生をひっくり返せるさ。
そんな言葉が、ポツリと口をついて出た。
それから少女は半年後に姿を消す日まで、毎日のように駅に訪れた。
消えたのは孤児院から離れたのか、捕まって少年院送りか、きっとそのどちらかだろう。
別れから、二度目の春。
胸いっぱいに朝の新鮮な空気を吸いこんだ老人は、ついでにアルコールとタバコの汚い煙も吸いたいと思ったので、近くの酒場に飛び込み、有り金全部使って安い蒸留酒を買った。
ふと、ボトルを空ける手を止めると、まるで荒んだ心の傷を温かい何かで埋めるような、恍惚に似た感覚が彼の中へと侵入してきた。
それは酒の匂いのせいなどではなかった。
店内に響きわたるピアノと天使の歌声。
「…これは、La grâce de Dieu(神様のお恵み)です。いい曲でしょう?最近デビューしたんですよ、まだ若いのに、素敵だねぇ…」
マスターの声は最後まで男に届かなかった。
老人は、虚空に向かってグラスを突き上げた。
乾杯...!
これは、21番ホームの天使に捧げる蒸留酒。
(おしまい)
物語:10票良質:21票
物語部門
ぺてー>>
映画のワンシーンを切り取ってきたかのような問題文です
真相の物語も期待を裏切りません