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ある日の昼下がり。
古びたテープレコーダーから流れ出すのは途切れ途切れの音。

その音を聴きながら、
《縁側に腰掛けてこのテープレコーダーを片手に日向ぼっこをする祖母が、いつもイヤフォンをしていたこと》を思い出した私は
“あの時”とは違う涙を流した。


では、“あの時”の涙の理由はいったい何だろうか?
[藤井]

【ウミガメ】19年06月13日 01:24
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解答
途切れ途切れの音は、幼き頃のピアノの発表会での私の演奏。たくさん間違えて聴くに堪えない失敗の演奏だった。
それを録音した母が祖母に聴かせようと再生した“あの時”、私は恥ずかしさや悔しさから祖母に聴かせるのが嫌で泣いた。


解説
私は幼き頃からピアノを習っていた。
小学1年生の頃、初めての発表会に挑んだ。課題曲には祖母の大好きな童謡『茶摘み』を選んだ。家で何度も何度も練習をし、ついに本番を迎える。
しかし当日私はひどく緊張していて、たくさん間違えてしまった。いつもはミスなく弾けるところも指が震えて何度もつっかえてしまい、聴くに堪えない演奏だった。どうにか最後まで弾き終えて礼をする。響き渡る拍手は全然嬉しくなんかなくて、私は泣きたい気持ちをこらえるのに必死だった。

客席で見守っていた母は私の演奏をテープに録音しており、帰宅後、あのひどい演奏を祖母に聴かせたのだ。
私は声を荒げて怒った。
「そんなの聴かせないでよ!!!!」
恥ずかしくて悔しくて涙が溢れた。あんなにたくさん練習したのに、あんなにたくさん間違えて……二度と聴きたくない演奏だ。祖母は私の背中を撫で、テープの再生を止めた。

それ以来、私の前でそのテープが再生されることはなかった。



歌が好きな祖母は日頃からよく童謡などを口ずさんでいて、たまに天気のいい日には縁側に腰掛けてテープレコーダーを片手に音楽を聴いているようだった。しかし、常にイヤフォンを装着していたので、祖母が何の曲を聴いているのかわからなかった。
私が近づいて隣に座ると、祖母はテープを止めてイヤフォンを外し、手遊びなどをたくさん教えてくれたものだ。
私は祖母が大好きだった。


季節は巡り、私は中学生になった。祖母は年々老衰により耳が遠くなり、声も出にくくなっているようだった。次第に部屋にこもりがちになり、縁側に置かれたテープレコーダーはついに再生されることがなくなってしまった。

私はふと、気になった。
祖母はイヤフォンで何の曲を聴いていたのだろうか?
興味本意でテープレコーダーを手に取り、イヤフォンを取り外して、再生ボタンを押す。


流れ出したのは、途切れ途切れのピアノの音。
聴くに堪えなかったあの日の私の演奏。


祖母はずっと、これを聴いていたのだ。
私が悔しさと恥ずかしさで泣き出したあの日から、私が傷つくことのないように、私に聴かれることのないように、わざわざイヤフォンをつけて。


「……おばあちゃんね、ウミコが発表会でその曲弾くって知ったとき、すっごく喜んだのよ」

いつの間にか後ろにいた母がそっと囁いた。

「おばあちゃんの好きな曲を選んでくれたことが嬉しくて仕方なかったみたいでね。ウミコにとっては失敗の演奏だったかもしれないけど、おばあちゃんにとってはとびっきりの宝物よ」


下手くそな演奏が終わり、拍手が響く。
それはとても温かくて、まるでその中に笑顔で手を叩く祖母の姿が見えるようで……

こらえきれず溢れる涙を、私は震える指で拭った。
 
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メラン・エブリド>>コメントなし
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プエノレトリコ野郎>>コメントなし
弥七>>ハッピーエンド狂の私の指先が、迷わずGoodを押しました。幸せな気分に浸りたい時に、是非どうぞ。
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アメミヤ[まねきねこ]>>コメントなし
くろだ>>コメントなし
メラン・エブリド>>コメントなし
ハルタ>>コメントなし
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