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火葬場に現れた男は、そこに置かれた棺桶の中身を盗み出すと、それを湖へと沈めてしまった。
一体なぜ?
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解説
「私、美しい人間の化石になりたいの。」
彼女の最後の願いを叶えるため、男は死体を盗み出したのだった。
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最近の彼女は、僕に対してわがままが多くなった。
やれあれを買ってこいだ、休日は一緒に居ろだ、旅行に行きたいだと彼女の口は止まることを知らない。
今日だって、彼女にせがまれるままこんな辺境の湖まで車を走らせてしまった。
せっかくの旅行で、一体何の目的で縁も所縁もないこの場所が選ばれたのだろうか?僕としては皆目見当もつかない。
彼女の方はといえば湖に着くなり岸辺の周りを楽しそうに歩いては、足先を水の中に入れて「水質チェック!!」とかなんとか言って大はしゃぎだ。
ならば直接聞いてやろう。と彼女に話しかけた僕は次の瞬間自分の耳を疑った。
「えっ、『化石になる方法』??」
そうよ、と言った彼女は真顔だった。全く彼女の考えていることは理解不能だ。そんな本を読んだから、自分は化石になりたいと言い出したのだ。
「私、世界一美しい人間の化石になりたいの。」
なんで?と疑問が思わず口をついて出た。
「だってロマンがあるでしょう??」
彼女はこちらを向いて話し始めた。
「博物館に飾られている恐竜みたいに、化石になって遠い未来まで美しく残っていたいの。あ、でも新しい知的生命体に研究されるのも面白そう^ ^人間死んだ後の方が長いんだから、楽しいことが多い方が良いに決まってるよね。それに…」
少し考えて、こう答えた。
「…それに、今の私の身体は、もうそんなにキレイじゃないから。」
そう言いながら、自分の右手を背中に隠した。
気づいているのだろうか。僕は襟から見える彼女の首筋に自然と目をやった。
鎖骨の下に見えるクルミ大の腫瘤。半年前、それは彼女の指先から徐々に広がってきた。肩までできてきた頃には最初にあった星型の小さな黒い痕がその辺縁さえ不明瞭になり、いでたちは悪魔の果実のようであった。
今では遠くから見ても無視できないほどに大きく、数も増えた。
『悪性黒◯腫』。医師にはそう診断された。
美しい彼女の夢は女優だった。大学で演劇を学びながら、町の小さな映画館などで演者をしながら生活をしていた。いつかはカメラの前に立ってテレビに出るとキラキラした瞳でそう言っていた。
しかし今の姿では、いやいづれにせよその夢はもう叶わない。
その現実は身体的な苦痛以上に、彼女へ大きな精神的ダメージを与えてしまった。
「私が死んだら、この湖の底に沈めてね。燃やしちゃダメだよ?そしたら化石になれるかもしれないから。」
彼女の頭の中はもう未来の話でいっぱいだ。今生きている世界のその後の、何万年何億年も離れた、遥か未来の話。不意に彼女の存在がとても遠く感じられた。
僕は彼女を引き止めるかのように、その手を取った。
「その夢、僕が叶えるよ。それまでのわがままも全て叶えてあげる。約束は必ず守るから。」
彼女の瞳を、まっすぐに見つめた。
「僕と幸せに生きよう。君が化石になるまで。」
約束、ちゃんと守ってね^ ^
と彼女は笑った。
(おしまい)(この物語は全てフィクションです。)
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