絡み絡んでカメレオン

簡易解説
「女に甘いろくでなしのまま野垂れ死んだ」と聞かされていた父親が実は病気で亡くなっており先の話は父親がカメコのためを思って付いた嘘だと気づき父親に詫びたくなった

カメコには父親がいない。といっても彼女の母親で女優のAは「女好きのろくでなしであなたを身ごもっていた私を捨ててほかの女優のところに行った挙句野垂れ死んでいった」と説明していたのでカメコ自身は父親のことにこれ以上深く立ち入ろうとは思ってもいなかった。
あの時までは…
Aは女優をやっていると言えどあまり名の知れた女優というわけではなく、それこそ言い方を悪くすれば無名女優。
カメコはAが1秒でも出ている映像を彼女のために見続ける日々を送っていた。
そんなある日、発見したいくつかのビデオテープ。
いつものようにカメコが出演したドラマか演劇の録画だと思いそのビデオを再生するカメコ。
しかし始まったのはドラマでも演劇でも何でもない、ただのホームビデオ。
撮影者はすぐに分かった。母親…Aである。そして映っていたのは若い男。
ああそうか、こいつが家を捨てたろくでなしの父親か、とカメコは思ったが不思議なことにいくら待ってもその男にろくでなしと思われる要素はみじんもなくどちらかと言えば好青年に近い感じだった。
そして2本目、3本目…と見ていくもその父親であろう男はまったくろくでなしの片鱗を見せようとはしない。
女が女優なら、男も俳優か、と思ったカメコ。
しかし最後のビデオを見てその考えは変わることになる。

最後のビデオ、これだけは最初から雰囲気が違った。
映っているのは弱弱しい姿の男。だが目を凝らしてみると先ほどまでの好青年であるということが分かる。
男は口を開く。

「A…見てるか？すまない…。せめて子供の…カメコの生まれるまでは生きたかったんだが…それも無理そうだ…。だからお前に…言いたいことがある…。」

男の口から出てきたカメコという名前、そして男から辛そうに語られたAだけとの思い出話にカメコは戦慄した。
そして極めつけは、最後に出てきたこの言葉。

「最後にお願いがあるんだA。もしカメコが父親のことを聞いてきたら…父親は別の女のためにお前たちを捨てて野垂れ死んだろくでなしだったと伝えてくれないか?悪びれなくていい、現に俺はお前たちを残して先に逝く…ろくでなしなんだからな…。それからカメコ、もしこれを見てるんなら親父の説教でも聞いてやってくれ。お前はお父さんみたいなろくでなしと結婚しちゃだめだぞ。」

父親がそう言い残すと映像は途切れた。カメコは泣いていた。
知らなかったとはいえ自分は父親に向かってなんて失礼な態度をとっていたのだろう、と。
せめて今からでも詫びようと、カメコは今まで行こうとも思ってなかった墓参りに行くことを決心した。