「空回りのメリーゴーランド」「13ブックマーク」
カメ夫とウミ田は大の親友。
この夏は毎日どこかに行こうと計画していた。
しかし遊園地に行った次の日、
カメ夫はウミ田を殺してしまった。
何故か?
この夏は毎日どこかに行こうと計画していた。
しかし遊園地に行った次の日、
カメ夫はウミ田を殺してしまった。
何故か?
18年07月17日 00:36
【ウミガメのスープ】 [吊られる男]
【ウミガメのスープ】 [吊られる男]

初出題になります。お口に合えば嬉しいのですが。
解説を見る
7月28日 (土)
以下の文章は、我が友人に捧げる私たちの思い出の記録である。
私とウミ田は唯一無二の親友だった。初めて会ったのは中学生の頃。
人見知りで本を読んでいた私に、君は気兼ねなく話しかけてくれた。
それは私には眩しすぎる笑顔だった。
私と君は馬が合った。高校生になっても、別の大学に行っても、私たちは幾度となく顔を合わせた。
様々なところに行き、笑い合い、夢を語った。
就職をして会う頻度は減った。
私は家庭を持ったが、君は家庭を持たなかった。
「気苦労は嫌いだ。」
そう君はよく言っていた。
会う頻度が減っても、私たちの繋がりが途絶えることはなかった。
時折、文通を続け心を通わせた。
そして私たちは歳をとった。段々と腰も曲がってきた。
そんなことを気にし始めたある日だった。
君から手紙が届いた。
「会いにきて欲しい。相談がある。」
短くそう書かれていた。
ここ数年、いや数十年か、君には会っていない。
わかったと返事をしたため、行く日時を書き込んだ。
決めた日時、君の家に向かうと玄関前で君が出迎えてくれた。
数十年ぶりに会う君の顔は、笑っているようでどこか辛そうだった。
お茶を飲みながら長話をした。思い返せば他愛もない話ばかりだった気がする。
やがて君はこう切り出した。
「伝えなきゃいけない話と、友人としての頼みがある。」と。
最近、物忘れがひどいこと。不安になって病院に行ったこと。
そしてアルツハイマー病と診断されたことを。
私はショックで言葉を失った。
君は続けて、こう言った。
「段々と薄れて行く記憶の中の思い出の場所を見て回りたいんだ。」
君は今までの日々を事細かに日記に記していた。
これを参考にして巡りたいと。
私は承諾した。
自分にできることなら何だってすると言った。
君はこう続けた。
「毎日行く場所を指定しよう。その日の最後に次に行く場所を決める。場所には現地集合をする。
そして、もし俺がその場に来れなかったら君が俺を殺してくれ。」
「大事な友人のことも忘れちまうような奴はもう俺じゃない。そこが俺の死に時さ。
無理強いはしない、ただ一番の友人である君に幕を下ろして欲しい。」
君の顔は必死だった。
その日のうちに頷くことはできなかった。
現実を直視できる覚悟がなかった。
結局、明日会う場所を決めて家を後にしてしまった。
君の日記は、この時私が預かった。
君には日記の続きを書いてくれと頼まれたが、あの時はそんな気持ちにはなれなかった。
それからは様々なところに出向いた。
日記を読み返すのだけではダメかと尋ねたら、
「1人で読むと他人事みたいに思えちゃってダメなんだ。」と言った。
私たちは日記の新しい方から足を運ぶことにした。
私の娘を彼に披露した動物園。初めてドライブして行った観光地。愚痴を言い合った居酒屋など。
計算ができなくなったり、引っ込み思案になったり、病の影響は君を躊躇なく蝕んだ。
私の名前すら忘れることもあった。
しかし、君は欠かさず集合場所に来た。決して君は泣き言一つ吐かなかった。
君は終始楽しそうに笑っていた。
そこは中学の時に、君に連れられて来させられた地元の遊園地だ。
古臭いコーヒーカップやメリーゴーランドしかない場所だが、
「来たことないなら行こう。」と君が強引に誘ったんだ。
君は約束の時間には現れなかった。
約束の時間を過ぎても私は辛抱強く待った。
日が落ちても限界まで待ち続けた。
とうとう君は現れなかった。
私はこの一夏の体験を思い返していた。
この思い出巡りは、私に君との友情を思い出させてくれたんだ。
この時間が、私に決心を与えてくれた。
次の日、彼の家に出向いた。チャイムを鳴らし彼が出てくる。
「お名前は?」と笑う姿はどこか昔の面影を感じた。
以上がこれまでの私の記録だ。
この君の日記は君と一緒に埋めようと思う。
もし見つかってしまったらその時はその時さ。
今までありがとう。
我が親愛なる友へ。
【要約解説】
ウミ田はアルツハイマーにかかり、記憶が薄れていっている。
そこで毎日カメ夫とウミ田は思い出の場所を巡り、
もし来なかったら殺してくれと、ウミ田はカメオに頼んでいた。
カメ夫は遊園地に行ったが、ウミ田は来れなかった為、
次の日カメ夫はウミ田を、泣く泣く殺すのであった。
以下の文章は、我が友人に捧げる私たちの思い出の記録である。
私とウミ田は唯一無二の親友だった。初めて会ったのは中学生の頃。
人見知りで本を読んでいた私に、君は気兼ねなく話しかけてくれた。
それは私には眩しすぎる笑顔だった。
私と君は馬が合った。高校生になっても、別の大学に行っても、私たちは幾度となく顔を合わせた。
様々なところに行き、笑い合い、夢を語った。
就職をして会う頻度は減った。
私は家庭を持ったが、君は家庭を持たなかった。
「気苦労は嫌いだ。」
そう君はよく言っていた。
会う頻度が減っても、私たちの繋がりが途絶えることはなかった。
時折、文通を続け心を通わせた。
そして私たちは歳をとった。段々と腰も曲がってきた。
そんなことを気にし始めたある日だった。
君から手紙が届いた。
「会いにきて欲しい。相談がある。」
短くそう書かれていた。
ここ数年、いや数十年か、君には会っていない。
わかったと返事をしたため、行く日時を書き込んだ。
決めた日時、君の家に向かうと玄関前で君が出迎えてくれた。
数十年ぶりに会う君の顔は、笑っているようでどこか辛そうだった。
お茶を飲みながら長話をした。思い返せば他愛もない話ばかりだった気がする。
やがて君はこう切り出した。
「伝えなきゃいけない話と、友人としての頼みがある。」と。
最近、物忘れがひどいこと。不安になって病院に行ったこと。
そしてアルツハイマー病と診断されたことを。
私はショックで言葉を失った。
君は続けて、こう言った。
「段々と薄れて行く記憶の中の思い出の場所を見て回りたいんだ。」
君は今までの日々を事細かに日記に記していた。
これを参考にして巡りたいと。
私は承諾した。
自分にできることなら何だってすると言った。
君はこう続けた。
「毎日行く場所を指定しよう。その日の最後に次に行く場所を決める。場所には現地集合をする。
そして、もし俺がその場に来れなかったら君が俺を殺してくれ。」
「大事な友人のことも忘れちまうような奴はもう俺じゃない。そこが俺の死に時さ。
無理強いはしない、ただ一番の友人である君に幕を下ろして欲しい。」
君の顔は必死だった。
その日のうちに頷くことはできなかった。
現実を直視できる覚悟がなかった。
結局、明日会う場所を決めて家を後にしてしまった。
君の日記は、この時私が預かった。
君には日記の続きを書いてくれと頼まれたが、あの時はそんな気持ちにはなれなかった。
それからは様々なところに出向いた。
日記を読み返すのだけではダメかと尋ねたら、
「1人で読むと他人事みたいに思えちゃってダメなんだ。」と言った。
私たちは日記の新しい方から足を運ぶことにした。
私の娘を彼に披露した動物園。初めてドライブして行った観光地。愚痴を言い合った居酒屋など。
計算ができなくなったり、引っ込み思案になったり、病の影響は君を躊躇なく蝕んだ。
私の名前すら忘れることもあった。
しかし、君は欠かさず集合場所に来た。決して君は泣き言一つ吐かなかった。
君は終始楽しそうに笑っていた。
そこは中学の時に、君に連れられて来させられた地元の遊園地だ。
古臭いコーヒーカップやメリーゴーランドしかない場所だが、
「来たことないなら行こう。」と君が強引に誘ったんだ。
君は約束の時間には現れなかった。
約束の時間を過ぎても私は辛抱強く待った。
日が落ちても限界まで待ち続けた。
とうとう君は現れなかった。
私はこの一夏の体験を思い返していた。
この思い出巡りは、私に君との友情を思い出させてくれたんだ。
この時間が、私に決心を与えてくれた。
次の日、彼の家に出向いた。チャイムを鳴らし彼が出てくる。
「お名前は?」と笑う姿はどこか昔の面影を感じた。
以上がこれまでの私の記録だ。
この君の日記は君と一緒に埋めようと思う。
もし見つかってしまったらその時はその時さ。
今までありがとう。
我が親愛なる友へ。
【要約解説】
ウミ田はアルツハイマーにかかり、記憶が薄れていっている。
そこで毎日カメ夫とウミ田は思い出の場所を巡り、
もし来なかったら殺してくれと、ウミ田はカメオに頼んでいた。
カメ夫は遊園地に行ったが、ウミ田は来れなかった為、
次の日カメ夫はウミ田を、泣く泣く殺すのであった。
「手を繋ぐ」「13ブックマーク」
【手を繋ぐ】
山小屋の床に広がる真っ赤な血。
そんな一目で異常事態だと分かる状況が目の前に広がる中で、“カメミ”が“恋人であるカメタ”の手を握った理由が“怯えていたから”でないとすれば……一体どんな理由だろうか?
山小屋の床に広がる真っ赤な血。
そんな一目で異常事態だと分かる状況が目の前に広がる中で、“カメミ”が“恋人であるカメタ”の手を握った理由が“怯えていたから”でないとすれば……一体どんな理由だろうか?
18年06月03日 08:14
【ウミガメのスープ】 [オリオン]
【ウミガメのスープ】 [オリオン]

タイトルはそういう意味です(*◉▽◉*) SPツォンさんむぎさん。
解説を見る
大好き。
カメタ、だぁいすき。
世界で一番、好き。好き好き。愛してる。
でもカメタは優しくてすごくモテるから、他の女の子と話したり腕を組んで並んで歩いたり、私のことをいつもないがしろにするの。
ダメだよカメタ。もっと私の傍にいてよ。何処にも行かないで。カメタがそのうち《私の手の届かない遠いところ》に行っちゃいそうな気がして、私気が狂いそうなくらい不安なの。
だからね?
手を繋いじゃったの。
ーー……《カメタ》の手を《頑丈な手錠》で、山小屋の中の《頑丈な金属の棒》に。
ハイキングに行こうなんて騙して連れてきてごめんね。
でももっと早くこうすればよかった。私以外の女の子と外で自由に遊びまわってるカメタよりも、鎖に繋がれて、私が手ずからご飯を食べさせてあげないと満足に生きられないカメタの方が、鳥かごの中にいる小鳥さんみたいに惨めで可愛いよ!
…………だけど、ねぇカメタ。
ここまでしておいたのに一体何処に行っちゃったの?
酷いよ。私が買い出しに行ってる間にいなくなるなんて。
薪割り用の斧を使ったのかな。手錠が絶対外れないようにって気をつけてたけどまさか腕の方を切るなんて……。
置き去りにされたカメタの手を握ってみると《まだ温かい……》。
嗚呼よかった。
《まだそんなに遠くには行ってないみたい》
次は切れないように、首を繋いでおかなくちゃ。
ふふふ。ワンちゃんみたいで、きっと可愛いわ。
カメタ、だぁいすき。
世界で一番、好き。好き好き。愛してる。
でもカメタは優しくてすごくモテるから、他の女の子と話したり腕を組んで並んで歩いたり、私のことをいつもないがしろにするの。
ダメだよカメタ。もっと私の傍にいてよ。何処にも行かないで。カメタがそのうち《私の手の届かない遠いところ》に行っちゃいそうな気がして、私気が狂いそうなくらい不安なの。
だからね?
手を繋いじゃったの。
ーー……《カメタ》の手を《頑丈な手錠》で、山小屋の中の《頑丈な金属の棒》に。
ハイキングに行こうなんて騙して連れてきてごめんね。
でももっと早くこうすればよかった。私以外の女の子と外で自由に遊びまわってるカメタよりも、鎖に繋がれて、私が手ずからご飯を食べさせてあげないと満足に生きられないカメタの方が、鳥かごの中にいる小鳥さんみたいに惨めで可愛いよ!
…………だけど、ねぇカメタ。
ここまでしておいたのに一体何処に行っちゃったの?
酷いよ。私が買い出しに行ってる間にいなくなるなんて。
薪割り用の斧を使ったのかな。手錠が絶対外れないようにって気をつけてたけどまさか腕の方を切るなんて……。
置き去りにされたカメタの手を握ってみると《まだ温かい……》。
嗚呼よかった。
《まだそんなに遠くには行ってないみたい》
次は切れないように、首を繋いでおかなくちゃ。
ふふふ。ワンちゃんみたいで、きっと可愛いわ。
「それができたら苦労はしない」「13ブックマーク」
少年はちょっとした怪我や体調不良でも学校の保健室に行くのだが、その際保健室の先生とほとんど話さないのは、「保健室の先生が嫌いだから」というだけではない。
では、他の理由とはなんだろう?
では、他の理由とはなんだろう?
18年08月13日 21:16
【ウミガメのスープ】 [とかげ]
【ウミガメのスープ】 [とかげ]

スープ病
解説を見る
「先生、早見君が怪我しました」
いつもより高い声で隣にいる長井が言うと、多田はいつも通り柔らかく笑って聞き飽きたセリフを口にする。
「また連れてこられちゃったのか。早見君、今日はどこ?」
「腕です、左の。教室で掃除してて。早見君が机を運んでるとき、ふざけた男子がホウキ振り回して。ホウキがささくれてたみたいで、ほら、腕に切り傷ができちゃったんです」
聞かれた俺ではなく、長井がスラスラと説明する。これも毎度のことだ。
「どれ、見せてごらん」
「……大した傷じゃないからいいですよ」
「多田先生にちゃんと見てもらわなきゃダメだよ。血も出てたし。早見君、いつもそうやって我慢するから」
君づけで呼ばれるのが気持ち悪い。長井は小学生の頃からの幼なじみで、ずっと俺のことを呼び捨てしている。
多田は俺の左腕を眺め、袖についた血にちらりと目をやると、またあの笑顔を浮かべた。
「ああ、ちょっと範囲が広いから、血も多かったかもしれないね。もう出血は止まっているし、深くないから大丈夫だよ。念のため消毒はしておこうか」
「お願いします。できれば怪我したってことがわかるように、大きな絆創膏ももらえますか? 怪我させた人に、ちゃんと反省してもらわなきゃ」
長井は口をとがらせて怒っている風を装うが、本当に怒っていたら、この程度では済まない。それはもう般若のごとく恐ろしいのだ。俺は何度も見たことがある。
「そうだね、もし目に入ったりしていたら、大変なことになっていたしね。ちょっと大袈裟だけど、ガーゼにしようか」
「いや、そんなにしなくても――」
「そうしてください! ね、早見君。佐々木君、ヘラヘラ笑って全然悪びれてなかったじゃん。マズイことしたってわからせた方がいいんだよ」
佐々木は中学に入ってから知り合った奴だが、やはり長井は普段呼び捨てしている。
多田は慣れた手つきで俺の腕にガーゼをあて、医療テープで綺麗に止めていく。長井はその様子をまばたきもせずにじっと眺めている。ただでさえ多田に触られるのが嫌なのに、もう痛くもない傷にこの処置は、なんとも居心地が悪い。
「さすが多田先生、本当に器用ですね!」
「ありがとう」
また、笑う。多田は自分の笑顔の効果を絶対わかっている。
「おっと、そろそろ掃除の時間が終わるね。教室に帰って、その佐々木君とやらに説教してやってね」
「はい、先生、ありがとうございました! ……ほら、早見君!」
「……ありがとうございました」
今すぐガーゼを引き剥がしてやりたいくらいなのだが、大人しく従う方が早く退場できそうだ。仕方なく小声で礼を言う。
「長井さんは本当にしっかりしているね」
最後にとびっきりの笑顔と褒め言葉。本当ははしゃぎ出したいくらい嬉しいのだろうけれど、それをなんとか抑えて、お上品な笑みを浮かべつつ、お辞儀をする長井。苛立つ気持ちを、保健室のドアを粗っぽく閉めるだけで、我慢した。
「もう、早見、態度悪すぎ! 先生に失礼でしょうが!」
ふくらはぎに容赦ない蹴りが入る。保健室から出た途端、これだ。そのまま教室へ向かう廊下をずんずん進む。長井の後ろについていく形で、俺も歩き出す。
「言ってるだろ? 多田は嫌いなんだって。あんまり話したくないんだよ」
「あんなに素敵な先生が嫌いなんて! 先生がカッコいいから、僻んでるんじゃないの?」
「……合わないだけだっての」
確かに多田をカッコいいと言う女子はたくさんいる。今年の四月に赴任してきたときは、保健室の養護教諭が若い男ということで、抵抗を感じる女子(と、ガッカリする男子)も少なくなかったはずだが、半年も経たずに生徒からも保護者からも好かれる人気教師になった。あいつを嫌う俺はかなりの少数派だろう。
「俺の態度が嫌なら、自分で仮病使えばいいだろう」
「嫌よ、多田先生に対して嘘つきたくないの」
「多田の前で猫かぶってるのは嘘に入らないのか? ……痛っ!」
今度はすねを蹴られた。
「じゃあもう直接話しかければいいじゃん。保健室に遊びにきました、先生とおしゃべりしたいんですって」
一瞬、その状況を想像したのか、長井はピタリと止まる。パッと振り返った彼女の顔は、真っ赤に染まっていた。
「そ……そんなの無理、無理! それができたら苦労はしないわよ!」
俺が怪我したり具合が悪そうにしたりすると、長井が嫌がる俺を保健室に引っ張っていく……と見せかけて、実は俺も共犯なのだ。俺は必ず、大丈夫だから保健室には行かない、と言う。長井が行った方がいいと説得する。結果、俺ひとりだとちゃんと保健室に行かないので、長井が付き添う形になる。保健室に行く口実ができるわけだ。
「付き合わされて、嫌いな奴の手当てを受ける俺の身にもなれよ」
「悪いってば! でもこんなの頼めるの、長井しかいないんだもん!」
「じゃあ、俺があいつとあんまりしゃべらないのも多目に見ろよ。それに、その方がお前、たくさん話せていいだろう?」
「……あ、確かに、ね」
今まで気づいていなかったのか、こいつ。当然、嫌いだから話したくないというのもあるが、同時に長井にとってもそれがよかろうと思ってやっていたのに。
「早見、ありがとう」
保健室で見せたよそゆきの笑みではなく、気にしている八重歯を遠慮なくのぞかせた笑顔。
たまにこいつは、いやに素直になる。調子が狂う。
「……わかればいい。ほら、もう少し急ぐぞ」
教室まではあと少しだ。早足になる俺に歩調を合わせて、長井も小走りになる。
「かわりにさ、早見に好きな人ができたらいくらでも協力するから。ね、遠慮せず頼んでよね」
お礼のつもりなのだろうが、突然そんなことを言ってくるものだから、ぎょっとする。
「……お前に手伝ってもらうことなんてない」
「なにそれ、役に立たないって意味?」
にらみをきかせて、肩にグーパンチをあてる素振り。
多田の前で見せる澄ました顔より、そうやって目まぐるしく変わる表情の方が良いと思うのだが、それは教えてやらない。
「役に立たないことはないだろうが、お前に誰が好きか教えなきゃならねぇじゃん」
「いいじゃないの、幼なじみの仲なんだからさ。あれ? もしかしてもういるの? ねぇねぇ、ちょっと打ち明けてみなさいよ、ほらほら」
まったく、この女は。
最後の質問を無視して、あと数メートルの距離を走った。後ろで長井が逃げたな、などと叫んでいる。そりゃあ逃げるに決まっている。
好きな奴を打ち明けろだって? 簡単に言ってくれる。
それができたら、こんな苦労はしていない。
END
【要約解説】
少年が片思い中の少女は、保健室の先生に夢中で、少年の怪我や体調不良を口実に保健室へ一緒に来る。恋敵である先生のことはもちろん嫌いなのだが、自分が黙っていた方が少女が先生とたくさん話せるので、少女のためにほとんど喋らないようにしているのだ。
いつもより高い声で隣にいる長井が言うと、多田はいつも通り柔らかく笑って聞き飽きたセリフを口にする。
「また連れてこられちゃったのか。早見君、今日はどこ?」
「腕です、左の。教室で掃除してて。早見君が机を運んでるとき、ふざけた男子がホウキ振り回して。ホウキがささくれてたみたいで、ほら、腕に切り傷ができちゃったんです」
聞かれた俺ではなく、長井がスラスラと説明する。これも毎度のことだ。
「どれ、見せてごらん」
「……大した傷じゃないからいいですよ」
「多田先生にちゃんと見てもらわなきゃダメだよ。血も出てたし。早見君、いつもそうやって我慢するから」
君づけで呼ばれるのが気持ち悪い。長井は小学生の頃からの幼なじみで、ずっと俺のことを呼び捨てしている。
多田は俺の左腕を眺め、袖についた血にちらりと目をやると、またあの笑顔を浮かべた。
「ああ、ちょっと範囲が広いから、血も多かったかもしれないね。もう出血は止まっているし、深くないから大丈夫だよ。念のため消毒はしておこうか」
「お願いします。できれば怪我したってことがわかるように、大きな絆創膏ももらえますか? 怪我させた人に、ちゃんと反省してもらわなきゃ」
長井は口をとがらせて怒っている風を装うが、本当に怒っていたら、この程度では済まない。それはもう般若のごとく恐ろしいのだ。俺は何度も見たことがある。
「そうだね、もし目に入ったりしていたら、大変なことになっていたしね。ちょっと大袈裟だけど、ガーゼにしようか」
「いや、そんなにしなくても――」
「そうしてください! ね、早見君。佐々木君、ヘラヘラ笑って全然悪びれてなかったじゃん。マズイことしたってわからせた方がいいんだよ」
佐々木は中学に入ってから知り合った奴だが、やはり長井は普段呼び捨てしている。
多田は慣れた手つきで俺の腕にガーゼをあて、医療テープで綺麗に止めていく。長井はその様子をまばたきもせずにじっと眺めている。ただでさえ多田に触られるのが嫌なのに、もう痛くもない傷にこの処置は、なんとも居心地が悪い。
「さすが多田先生、本当に器用ですね!」
「ありがとう」
また、笑う。多田は自分の笑顔の効果を絶対わかっている。
「おっと、そろそろ掃除の時間が終わるね。教室に帰って、その佐々木君とやらに説教してやってね」
「はい、先生、ありがとうございました! ……ほら、早見君!」
「……ありがとうございました」
今すぐガーゼを引き剥がしてやりたいくらいなのだが、大人しく従う方が早く退場できそうだ。仕方なく小声で礼を言う。
「長井さんは本当にしっかりしているね」
最後にとびっきりの笑顔と褒め言葉。本当ははしゃぎ出したいくらい嬉しいのだろうけれど、それをなんとか抑えて、お上品な笑みを浮かべつつ、お辞儀をする長井。苛立つ気持ちを、保健室のドアを粗っぽく閉めるだけで、我慢した。
「もう、早見、態度悪すぎ! 先生に失礼でしょうが!」
ふくらはぎに容赦ない蹴りが入る。保健室から出た途端、これだ。そのまま教室へ向かう廊下をずんずん進む。長井の後ろについていく形で、俺も歩き出す。
「言ってるだろ? 多田は嫌いなんだって。あんまり話したくないんだよ」
「あんなに素敵な先生が嫌いなんて! 先生がカッコいいから、僻んでるんじゃないの?」
「……合わないだけだっての」
確かに多田をカッコいいと言う女子はたくさんいる。今年の四月に赴任してきたときは、保健室の養護教諭が若い男ということで、抵抗を感じる女子(と、ガッカリする男子)も少なくなかったはずだが、半年も経たずに生徒からも保護者からも好かれる人気教師になった。あいつを嫌う俺はかなりの少数派だろう。
「俺の態度が嫌なら、自分で仮病使えばいいだろう」
「嫌よ、多田先生に対して嘘つきたくないの」
「多田の前で猫かぶってるのは嘘に入らないのか? ……痛っ!」
今度はすねを蹴られた。
「じゃあもう直接話しかければいいじゃん。保健室に遊びにきました、先生とおしゃべりしたいんですって」
一瞬、その状況を想像したのか、長井はピタリと止まる。パッと振り返った彼女の顔は、真っ赤に染まっていた。
「そ……そんなの無理、無理! それができたら苦労はしないわよ!」
俺が怪我したり具合が悪そうにしたりすると、長井が嫌がる俺を保健室に引っ張っていく……と見せかけて、実は俺も共犯なのだ。俺は必ず、大丈夫だから保健室には行かない、と言う。長井が行った方がいいと説得する。結果、俺ひとりだとちゃんと保健室に行かないので、長井が付き添う形になる。保健室に行く口実ができるわけだ。
「付き合わされて、嫌いな奴の手当てを受ける俺の身にもなれよ」
「悪いってば! でもこんなの頼めるの、長井しかいないんだもん!」
「じゃあ、俺があいつとあんまりしゃべらないのも多目に見ろよ。それに、その方がお前、たくさん話せていいだろう?」
「……あ、確かに、ね」
今まで気づいていなかったのか、こいつ。当然、嫌いだから話したくないというのもあるが、同時に長井にとってもそれがよかろうと思ってやっていたのに。
「早見、ありがとう」
保健室で見せたよそゆきの笑みではなく、気にしている八重歯を遠慮なくのぞかせた笑顔。
たまにこいつは、いやに素直になる。調子が狂う。
「……わかればいい。ほら、もう少し急ぐぞ」
教室まではあと少しだ。早足になる俺に歩調を合わせて、長井も小走りになる。
「かわりにさ、早見に好きな人ができたらいくらでも協力するから。ね、遠慮せず頼んでよね」
お礼のつもりなのだろうが、突然そんなことを言ってくるものだから、ぎょっとする。
「……お前に手伝ってもらうことなんてない」
「なにそれ、役に立たないって意味?」
にらみをきかせて、肩にグーパンチをあてる素振り。
多田の前で見せる澄ました顔より、そうやって目まぐるしく変わる表情の方が良いと思うのだが、それは教えてやらない。
「役に立たないことはないだろうが、お前に誰が好きか教えなきゃならねぇじゃん」
「いいじゃないの、幼なじみの仲なんだからさ。あれ? もしかしてもういるの? ねぇねぇ、ちょっと打ち明けてみなさいよ、ほらほら」
まったく、この女は。
最後の質問を無視して、あと数メートルの距離を走った。後ろで長井が逃げたな、などと叫んでいる。そりゃあ逃げるに決まっている。
好きな奴を打ち明けろだって? 簡単に言ってくれる。
それができたら、こんな苦労はしていない。
END
【要約解説】
少年が片思い中の少女は、保健室の先生に夢中で、少年の怪我や体調不良を口実に保健室へ一緒に来る。恋敵である先生のことはもちろん嫌いなのだが、自分が黙っていた方が少女が先生とたくさん話せるので、少女のためにほとんど喋らないようにしているのだ。
「不吉な小雨」「13ブックマーク」
高校受験を間近に控えたフミエが一人で自宅に向かっている途中。
予期せぬ雨が降り始めるやいなや、会ったことのない他人の志望校合格を心配し始めたのはなぜだろう?
予期せぬ雨が降り始めるやいなや、会ったことのない他人の志望校合格を心配し始めたのはなぜだろう?
18年11月11日 13:31
【ウミガメのスープ】 [オリオン]
【ウミガメのスープ】 [オリオン]

SPサンクス:さるぼぼさん
解説を見る
その日フミエは学業成就で有名な神社に初詣に訪れていた。フミエと同じく合格祈願の神頼み目的でやって来る受験生が多いのだろう。境内は凄まじい人混みで、賽銭箱付近では投げつけられた小銭がいくつも飛び交っていた。
そしてその帰り道でのことだ。
不意に小雨が降ってきた。
雨具の用意をしていなかったフミエはひとまず着てきたコートのフードを被ったのだが、その時。
……チャリン
と、フードの中から何かが転がり落ちてきた。
足元に転がったそれは、誰かの願いを託されて投げられたのであろう『一枚の五円玉』だったのだ。
そしてその帰り道でのことだ。
不意に小雨が降ってきた。
雨具の用意をしていなかったフミエはひとまず着てきたコートのフードを被ったのだが、その時。
……チャリン
と、フードの中から何かが転がり落ちてきた。
足元に転がったそれは、誰かの願いを託されて投げられたのであろう『一枚の五円玉』だったのだ。
「愛用の文房具」「13ブックマーク」
カメコは数学以外の授業でも、
お気に入りのコンパスをよく使う。
珍しい習慣ではあるものの、
周囲の皆は笑って納得している。
カメコがコンパスを愛用する理由は?
お気に入りのコンパスをよく使う。
珍しい習慣ではあるものの、
周囲の皆は笑って納得している。
カメコがコンパスを愛用する理由は?
19年01月01日 21:01
【ウミガメのスープ】 [輪ゴム]
【ウミガメのスープ】 [輪ゴム]

ヒント少なめで進行します
解説を見る
答え:カメコ先生はとても背が低いから。
黒板の高いところに書くために、
黒板用の大コンパスを使ってます。
黒板の高いところに書くために、
黒板用の大コンパスを使ってます。