みんなのGood

カゴの中の鳥「1Good」
物語:1票
学級委員の白鳥さんが「最近誰かに見られている気がする」とクラスの女子に打ち明けているのを聞いた武田は、白鳥さんを見守ることにした。
翌日、武田は白鳥さんの上履きを盗んだ。 なぜ?
25年05月18日 19:00
【ウミガメのスープ】 [異邦人]

SP:ほずみさん&「マクガフィン」さん 感謝!




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【簡易解説:】
精神的ストレスから{万引きを繰り返していた白鳥さん}は良心の呵責で日に日に具合を悪くしていた。
そんな白鳥さんを心配したクラスの女子に、{罪悪感から来る『誰かに見られている錯覚』}に囚われていると口を漏らす。
それを聞いた武田は「白鳥さんがストーカー被害を受けている!」と思い{白鳥さんを守るために尾行した結果、白鳥さんが万引きするところを目撃}してしまう。
守ろうとしていた白鳥さんを糾弾することができなかった武田だが、このままでは白鳥さんが良くないと思い、上履き盗難騒動を起こすことによって万引きでお店の人が困ることを白鳥さんに伝えようとした。



【物語:】

学級委員の白鳥さんは同い年とは思えないほど大人びていて、クラスのヒロインで、僕の憧れで、だから……。

夕暮れの迫る放課後、僕は白鳥さんを屋上に呼び出した。
スリッパ履きで現れた白鳥さんは突然のことに困惑した様子だ。
「白鳥さん、これ……」
僕は背中に隠し持っていた白鳥さんの上履きを差し出す。
白鳥さんが驚く。
「武田くんが見つけてくれたの?」
「……違うんだ。僕が盗んでいたんだ」
「えっ」
「ごめんなさい。 盗まれるって、困るよね」
そう言って僕は白鳥さんに上履きを渡した。
……それで終わりにするつもりだった。後は白鳥さんを信じて、自分は何も知らないフリをするつもりだった。
でも、白鳥さんの悲痛な眼差しを見た時、彼女を独り置いてその場を去ることができなかった。
「実はね、昨日、見ちゃったんだ。白鳥さんが、その……万引き、してるところ」
「…………」
「事情があるなら、聞かせてほしいんだ」
「…………」
白鳥さんは一つ大きく深呼吸すると、ポツリポツリと語り出した。
「……先月ね、塾でクラス落ちしちゃったの。一番上のSクラスからAクラスに。……そんなことで、って思った?」
「う、うん。だって先週のテストも一人だけ100点だって褒められてたし」
「ホントはね、もっと良い高校に入れってお母さんに言われてたの。私の両親、高学歴だから。でも緊張で受験失敗しちゃって。それで大学受験では失敗しないように塾でSクラスをキープしろって言われてたんだ。そのために部活も禁止。 でもね、ホントは中三ぐらいから限界感じてたの。私はお父さんやお母さんみたいに頭良くないんだって。だから違う形で認めてもらえないかなって高校に入って学級委員になってみたら、内申点上げる暇があれば勉強しろって怒られてさ」
高嶺の花だとばかり思っていた白鳥さんがそんな悩みを抱えていたなんて、僕は全く知らなかった。
「だから、今度の文化祭のシンデレラ役も当然断るつもりだったんだ。でもね、みんなに推薦してもらった時、どうしても断れなかったの。私の高校の思い出、塾での勉強だけにしたくなかった」
「白鳥さん……」
「でも、塾でクラス落ちしちゃって。お母さんものすごく怒って。白鳥家の、恥、だって。私、ずっと良い子でいたのに……。 シンデレラ役に浮かれてたせい、なんてことは無いの。本当にもう私の頭の限界だったんだよ」
「……」
「でもそんなことお母さんは納得してくれないし、それなのに学校じゃ優等生のままだし。誰にも相談できなくて、鬱になっちゃって、魔が差して……」
「そうだったんだ……」
いつだって大人びて見えていた彼女が、今だけはひどく幼く見えた。
「初めて万引きした時、『私の人生もうおしまいだ』って思ったのと同時に、解放された気がしたの。その感覚が忘れられなくて、気付けば2回3回って。 ……でも、いつも誰かの視線を感じるようになっちゃって、結局今まで以上に鬱になっちゃって」
やはり、白鳥さんが感じてた視線の正体はストーカーじゃなくて罪悪感から来る疑心暗鬼だったんだ。
でも、それが無かったら白鳥さんはもっと悪くなっていた。
「悪いことはしちゃダメだって神様が見てるんだよ」
自然と口をついて出た言葉だった。
白鳥さんはちょっと驚いた後、悲しげに笑った。
「…………そうかもね。……でも、じゃあ、私のお母さんは悪くないのかな」
「悪いよ」
「でも!私のこと恥だなんて酷いこと言ったのにちっとも悪いと思ってない!」
「悪いことをして悪いと思わないのが一番悪いよ!」
僕の大声に白鳥さんが驚いた。自分でも驚いた。
「…………。うん、そうだよね。自分の上履きを盗まれて分かった。お店の人、困ってるんだって。騒ぎになってるんだって。 私、お店に謝りに行く」
「一緒に行くよ」
「そんな、良いよ」
「ううん。僕、白鳥さんの万引きを見た時、その場で何もできなかったんだ。悪いことを悪いとちゃんと言えなくて上履きを盗むなんてやり方をしちゃったんだ。僕も白鳥さんに誠意を見せなきゃ」
「そっか。じゃあ、お願いします」
そう言うと、上履きを手に持ちスリッパ履きのまま校舎に戻る白鳥さん。
「あ、上履き履きなよ」
「どうせすぐ外履きに履き替えるから」
次の瞬間、スリッパが足から外れて白鳥さんは階段を踏み外した。
「あっ」
「危ない!」
転落しかけた白鳥さんの腕を、間一髪で僕は掴んでいた。
「あ……ありがとう」
白鳥さんが階段にへたり込む。
「やっぱり上履きに履き替えなよ」
「うん……」
放り落とされた上履きを拾ってきて白鳥さんに渡す。
「はい」
座ったまま上履きに履き替える白鳥さん。
「……ガラスの靴よりピッタリかな」
「へ?」
発言の意図が分からずポカンとする僕を白鳥さんがじっと見る。
「???」
「ううん、何でもない。  それじゃあ、連れていってくれる?」
「あ、うん!」

店長さんによる白鳥さんへの処分は、店頭での厳重注意。警察、学校、家への通報はされなかった。
散々怒られて店を出た白鳥さんの目元は赤かったけど、別れ際の表情は晴れ晴れしているように見えた。



で、翌日、朝練生徒の目撃情報から僕が白鳥さんの上履きを盗んだことがバレまして。
「武田てめぇこの野郎!」
「盗まれた白鳥さんと探し回った俺らに謝れ!」
「最低!最悪!外道!下劣!」
「お前はいつかやると思ってたよ」
「白鳥さんの感じてた視線の正体って武田くん……?」
「何だその話!? オイコラ武田ぁ!!」
「ちょちょちょちょぉっ!?」
僕は思った。この世の中は理不尽だ。

「あははっ!」

白鳥さんが声を上げて笑った。
みんな驚く。僕も驚く。白鳥さんの見たことのない破顔に。
みんなの注目が自身に集まってることに気付くと、目尻を擦って神妙な顔つきとなって僕をじっと見る白鳥さん。
白鳥さんに見つめられて思わず顔が熱くなる。
「武田くん。 神様は見ているわ」
「白鳥さん!」
そうだ、神様は見ている。悪いことも、そして良いことも。
上履きを盗んだことの意味も神様はきっと分かってくれる。
そして何より、白鳥さんがそのことを知ってくれている。
「そう……神様は見ているのよ武田くん!」
芝居がかった口調の白鳥さんがズビシィッ!と僕を指さす。
「…………白鳥さん?」
「そうだ神様が見てるぞ武田ぁ!」
「閻魔様も見てるぞゴルァ!」
「ここで会ったが百年目ぇ!年貢の納め時だ観念しろやぁ!」
「吐け!吐いちまえ!テメェが食った白鳥さんの上履きごとよぉ!」
「武田、上履き食べたってよ」
「のえええええぇ!?」
とんだ裏切りだった。
……いや、でも、まあ、白鳥さんの無邪気な笑顔を見られるならこんな役回りも悪くはないかな。
そう思って白鳥さんを見ると、めっっっちゃ邪悪な笑みを浮かべていた。
「いや良くないよ!悪いことしたら悪いと思わないと!ちょっと!?ねえ!白鳥さーん!!!」
「あはははっ!」



もしも好きな人が万引きしていたら、あなたならどうしますか?