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【正解を創りだすウミガメ】らてらて鯖版、第8回を開催します!

(前回の様子:第7回 https://late-late.jp/mondai/show/3855)

創りだす企画も早いもので第8回を迎えました。毎回カオスな要素に怯むことなく立ち向かう皆さんの姿は、まるで滝登りをするシャケのよう。
自分はこの企画に数回参加する中で、『奇抜な要素をどんな風に組み込むかというより、癖のない要素をいかに扱うか?という創りだすが見てみたい』と考えていました。
というわけで、そんな思いを詰め込んだ第8回。良ければお付き合いください!


今回は【 要素7個 】でいきます。
5つを出題者チョイス、2つをランダムで選出します。
主張の激しい素材が減る分、味付けはシェフの腕にかかっています。ウミガメの原点に立ち返って、味わい深い正解を創りだしましょう。

では、問題文をどうぞ。



■■ 問題文 ■■

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


その老人は、毎年必ず絵本を買う。

年々老いていく体を杖で支えながら「来年はもう歩けないだろう」と悟った老人は

その年に買った生涯最後となる絵本を、道端に置き去りにした。


一体なぜ?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

この問題には、解説を用意しておりません。皆様の質問がストーリーを作っていきます。
以下のルールをご確認ください。




■■ ルール説明 ■■

▶ 1・要素募集フェーズ ◀
 [2/13 20:00頃~質問が40個集まるまで]

初めに、正解を創りだすカギとなる色々な質問を放り込みましょう。


◯要素選出の手順

1.出題直後から、”YESかNOで答えられる質問”を受け付けます。質問は【1人2回】まで。

2.皆様から寄せられた質問の数が”40”に達すると締め切り。
 今回は、全ての質問のうち”5”個を出題者の独断、さらに”2"個をランダムで選びます。
 合計”7”個の質問が選ばれ、「YES!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。

※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※良質以外の物は「YesNo どちらでも構いません。」と回答いたします。こちらは解説に使わなくても構いません。

※矛盾が発生する場合や、あまりに条件が狭まる物は採用いたしません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(先に決まった方優先)
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)

なお、要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。



▶ 2・投稿フェーズ ◀
 [要素を7個選定後~2/23 23:59]

要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。

らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう!

※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。
ラテシン版:sui-hei.net/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
らてらて鯖:https://late-late.jp/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ


◯作品投稿の手順

1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
 質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
 「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。

2.すでに投稿済みの作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してから投稿してください。
 記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
 しばらく時間をおいてから再び確認してください。

3.まず「タイトルのみ」を質問欄に入力してください。
 後でタイトル部分のみを[良質]にします。

4.次の質問欄に本文を入力します。本文が長い場合、複数の質問欄に分けて投稿して構いません。
 また、以下の手順で投稿すると、本文を1つの質問欄に一括投稿することが出来て便利です。

 まず、適当な文字を打ち込んで、そのまま投稿します。
 続いて、その質問の「編集」ボタンをクリックし、先程打ち込んだ文字を消してから投稿作品の本文をコピペします。
 最後に、「長文にするならチェック」にチェックを入れ、編集を完了すると、いい感じになります。

5.本文の末尾に、【おわり】【完】など、「終了を知らせる言葉」を必ずつけてください。



▶ 3・投票フェーズ ◀
 [2/24 00:00頃~2/26 23:59]

投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。


◯投票の手順

1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。

2.作品を投稿した「シェフ」は“3”票、投稿していない「観戦者」は“1”票を、気に入った作品に投票できます。
 それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
 また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。

※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。

3.皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。

 ◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)→その質問に[正解]を進呈します。

 ◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)→その作品に[良い質問]を進呈します。

 ◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)→全ての作品に[正解]を進呈します。

 そして、見事『シェチュ王』になられた方には、次回の【正解を創りだすウミガメ】を出題していただきます!

※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。



■■ タイムテーブル ■■

◯要素募集フェーズ
 2/13(水)20:00~質問数が【40個】に達するまで
 (万が一質問が集まらない場合は2/13(水)23:59で締め切ります)

◯投稿フェーズ
 要素選定後~2/23(土)23:59まで

◯投票フェーズ
 2/24(日)00:00頃~2/26(火)23:59まで

◯結果発表
 2/27(水)2:00までを予定しております。



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普段は参加をためらってしまう方や時間がなくて書き上げられない方にも、『今回はちょっと参加できそうかな?』と思っていただければ幸いです。
それこそが、私が創りだす主催に憧れた一番の思いでした。
皆さんにとって、楽しいひとときになりますように。



それでは、『要素募集フェーズ』スタート!

☆今回、要素数が少ないので質問は【1人2回まで】です。よろしくどうぞ!
19年02月13日 20:01
【新・形式】 [藤井]

結果発表しました。めちゃくちゃ楽しかったです、皆さんありがとう。




解説を見る
これより【第8回-正解を創りだす『絵本を買う老人』】の結果発表に移ります。

まずは参加者の皆さん、大変お疲れさまでした!企画常連さんに加え、普段創りだすで見かけない方も要素や作品を投稿してくださって本当に嬉しかったです。
創りだすは個人的にやや敷居の高い企画というイメージがありました。普段文章を書かない人や、忙しくてあまり時間を取れない人にも気軽に参加してもらうにはどうすればいいんだろう?そんな思いで色々と試行錯誤しました。
そして今回要素数をがっつり減らしたわけですが、結果として21名もの方に参加していただくことが出来、自分の思いは叶ったのかなという気がします。
また、奇抜な要素を組み込むことに慣れつつあった常連参加者の方々にとっては、今回の問題文と要素はある意味いつも以上に難しかったのではないでしょうか。
参加ハードルは下がりつつもレベルそのものが易しくなったわけではない。個性のない要素に色をつけ、物語を動かしていく腕が試される。シンプルながらも非常に見応えのある第8回になったのではないかと思います。



それでは結果発表にまいりましょう!
まずは最難関要素の発表です。


【最難関要素賞】

『老人の過去(=最後に選出された要素)に対して批判的な人たちが続出する』(4票)👑
『意外と普通だった』(4票)👑
『老人は杖を折った』(4票)👑

『そこには愛がある』(3票)
『道に迷う』(3票)
『忘れられない想い出がある』(1票)
『その老人の過去が関係する』(1票)


なんと今回、全要素に票が入りました。
そんな中、HIRO・θ・PENさん、キャノーさん、白露さんから頂いた要素が同率1位となりました!

「愛って何?」「普通って何?」参加者を哲学思考に追いやった今回の要素たち。
杖の折り方にはそれぞれの個性が滲み出ていたような気がします。

ちなみに今回、ランダムで選ばれた要素はこちら。
 ①老人の過去(=最後に選出された要素)に対して批判的な人たちが続出する
 ⑤意外と普通だった




それではいよいよ作品の表彰にまいります。
全29作品もの投稿の中から、最も多くの人の心を掴んだのは一体どの作品だったのでしょうか!


【最優秀作品賞】

「コンピューターに世界征服をさせない方法」(作・葛原)(9票/6人)👑

「かみさまのかたおもい」(作・ちくわさん(偽物))(8票/7人)

「ファンタジーをあげよう」(作・CROWN)(5票/5人)

「老人達の大運動会」(作・Taka)(3票/3人)
「この絵本に愛をこめて」(作・ZERO)(3票/3人)
「ロスト・ラヴストーリー」(作・もっぷさん)(3票/3人)


というわけで、数ある作品の中から最も多くの票を集めたのは……
葛原さんの『コンピューターに世界征服をさせない方法』でした!!
独特な語り口や様々な引用を用いての登場人物の掛け合い、何とも言えぬ読後感に惹かれた方が多かったようです。同じ人からの複数票を獲得していたのも印象的でした。

次点は、ちくわさん(偽物)さんの『かみさまのかたおもい』。
最後の最後で「そっち!?」となる叙述トリックに唸らされたのは私だけではなかったようです。情景や心情の描写がとても丁寧で繊細でした。

以下、作品多数の為まとめての表記になります。


▼ 2票獲得 ▼
「その絵本あげるの?」(作・とろたく(記憶喪失))
「老人は1対1なら強いです」(作・キャノー)
「にせものに捧ぐ」(作・とろたく(記憶喪失))
『老人と少女』またはバレンタインの偶然」(作・赤升)
「あいをあなたへ」(作・ひよこさん)
「ぼくのじいちゃん」(作・ひよこさん)
「めでたし、めでたしのその先」(作・ごがつあめ涼花)
「全裸ますか?」(作・ZenigokE)
「サンタクロース、最後のプレゼント」(作・赤升)
「【実卓リプレイ】CKPゲームで遊んでみた」(作・ハシバミ)
「(R弁護士の手帳より抜粋)」(作・とろたく(記憶喪失))
「あの日の自分、今の自分」(作・「マクガフィン」)

▼ 1票獲得 ▼
「読み上げられるオモイ-第52節-」(作・残酸)
「「私は知らないままでいいと思った」老人と絵本、その真実を語る」(作・ハシバミ)
「さよなら私」(作・ラピ丸)
「必殺!仕事人 モンド、ジョーダンをいう」(作・きっとくりす)
「後日譚」(作・夜船)
「はらこめしますか?」(作・CROWN)
「A man who loves English」(作・ぎんがけい)


以上が投票結果になります。
投票外でも各作品へコメントを下さっている方もいますので、是非とも投票会場をご覧ください!








第8回-正解を創りだす『絵本を買う老人』、いかがでしたか?

今回の問題文は【老人】と【絵本】をテーマに組み立ててみました。絵本といえば自然と子ども向けを想像しますが、それを老人が毎年買うという行為は一体何のため?→老人にとって何かしら思い入れのあるものなかな。では、そんなものを最後には道端に置き去りにしてしまうのは一体なぜ?……とまぁこんな具合に考えていきました。(ちなみに、最初は【絵本】ではなく【観覧車】をテーマにしていました)
自分で容易に答えの見つからない問いだからこそ、創りだすの企画で皆さんの解説を見てみたい。そんな風に考えた結果、たくさんの絵本が道端に置き去りにされたわけですが(笑)
たった一冊の絵本には到底収まりきらないような色濃いストーリーが、その向こう側にはありました。

皆さんに投稿いただいた作品には、アナザーストーリーとして短いお話を回答欄に添えさせていただきました。拙いものですが、お時間があれば是非ご覧ください。
そして私も正解を創りだしてみました!下のまとメモ欄に載せています。エキシビションとは思えない長さですが、こちらももしお暇があれば読んでみていただけると嬉しいです。あまりにも要素に癖がなさすぎて、カオスな要素が恋しくなるほどでした(笑)


さて、そろそろお別れの時間です。
今回の創りだすの感想や思いなんかがあれば、↓のチャットやミニメ、ツイッターなんかで教えて頂ければ藤井とても喜びます。
それでは、シェチュ王のさんにバトンパスをして私はこのあとカフェテリア赤升にはらこめしを食べに行くとします。この時間に営業してるかなぁ、カフェテリア赤升。

ではでは!また次回の創りだすでお会いしましょう。
ありがとうございました!

カメオの憂鬱「15ブックマーク」
医者の顔を見たカメオは呟いた。

「しばらくは我慢しないとな…」

一体どういうこと?
19年04月09日 16:12
【ウミガメのスープ】 [トマト]

初出題です!よろしくお願いします。




解説を見る
バイト暮らしのカメオは、少ない給料で細々と生活していた。

今日は給料日の3日前。コンビニで昼食を買うと、財布に残っていたのは最後の千円札だった。

千円札に載っている野口英世は偉大な医者だったんだよな…僕も有名人になれたらもっと稼いで良い暮らしが出来るのに…

「給料日まで、しばらくは我慢しないとな…」

弁当を食べたら、今日も夜まで仕事だ。
21の天使の蒸留酒「15ブックマーク」
昔、男は警察の目を盗んで深夜の駅のホームに侵入し、設置されたピアノを演奏する事を日課としていた。

ある日彼は酒場に行くと、一番安い蒸留酒を注文した。

そして一口飲んだところでマスターを呼びつけた。

「すまんが、これはなんて名前だ?」

「…これは、La grâce de Dieu(神様のお恵み)です。」

それをきいた男は、グラスを虚空に向かって突き上げた。

一体なぜ?
19年05月05日 13:36
【ウミガメのスープ】 [弥七]

ご参加ありがとうございました!




解説を見る
<解説>
簡易解答:ホームレスの老人は駅のピアノを使って孤児に音楽を教えていた。時を経てピアニストとして大成した少女の曲に出会い、彼女の人生を祝福したのだった。

ーーーーーー
最初は単なる憂さ晴らしだった。

日がな1日迷子を預かったり、ろくでもない紛失届の裏でせっせと五目並べをしている奴らのために、神が仕事を与えてやろうというのだ。(自分の風貌を見れば、誰だって神様と勘違いするだろう)

こんな俺でも、昔は人間に音楽を教えて金をもらったこともあった。そんな俺様がどうして、こんなに落ちぶれたのだろう。

きっと酒が足りないせいだな。

深夜の21番ホームでは、都会の喧騒も、俺を嘲り罵しる世間も全ては無に伏せる。

老人は汚い鹿撃ち帽を外し、それを座布団代わりに椅子へ座った。

すると、今日はおかしなことが起こった。

鍵盤に手を置くと、文字も読めなそうな子供がひとり、ピアノの前に立つではないか。

鬱陶しくも片目で観察していると、なにやら演奏に合わせて指を必死に動かしている。俺の動きを真似しているのか?なんだってそんなことを??

ははあ、さては。

ピアノを買ってもらう親も金もない孤児が、興味本位で俺に付いてきたんだろう。

ふん、勝手にするといい。と俺は思った。

好き勝手に弾いていた男は、いつの間にか少女を椅子に座らせ、しまいにはブルグミュラーの25の練習曲を一通りやる羽目になっていた。

お前は若い、きっと人生をひっくり返せるさ。

そんな言葉が、ポツリと口をついて出た。

それから少女は半年後に姿を消す日まで、毎日のように駅に訪れた。

消えたのは孤児院から離れたのか、捕まって少年院送りか、きっとそのどちらかだろう。

別れから、二度目の春。

胸いっぱいに朝の新鮮な空気を吸いこんだ老人は、ついでにアルコールとタバコの汚い煙も吸いたいと思ったので、近くの酒場に飛び込み、有り金全部使って安い蒸留酒を買った。

ふと、ボトルを空ける手を止めると、まるで荒んだ心の傷を温かい何かで埋めるような、恍惚に似た感覚が彼の中へと侵入してきた。

それは酒の匂いのせいなどではなかった。

店内に響きわたるピアノと天使の歌声。

「…これは、La grâce de Dieu(神様のお恵み)です。いい曲でしょう?最近デビューしたんですよ、まだ若いのに、素敵だねぇ…」

マスターの声は最後まで男に届かなかった。

老人は、虚空に向かってグラスを突き上げた。


乾杯...!


これは、21番ホームの天使に捧げる蒸留酒。

(おしまい)
幸せは歩いてこない「15ブックマーク」

ショウくんのことが好きなマリちゃんは、
ショウくんと手を繋げるようになったので、
悲しみの涙を流した。

一体どういうこと?
19年11月11日 21:00
【ウミガメのスープ】 [「マクガフィン」]

お久しぶりです^ ^ つかの間の復帰?




解説を見る

『簡易解説』
夫婦であり、幼い息子がいる2人。
家族で仲良く歩くときはいつも、間に息子を挟んで手を繋いでいたのだが、息子が亡くなってしまったために手を繋げるようになった。
それを実感した妻は、涙を流した。





リョウタが亡くなった。


それはあまりにも唐突で、葬儀の最中もまだ、どこかフィクションじみたものを感じていた。

「リョウタは私たちの自慢の息子でした。」
夫の言葉に、弔客たちは5年という短すぎる人生を嘆いた。
しかしなぜだか私の頬には、涙の筋は伝わなかった。


喪服の夫、喪服の私。駅からの帰り道、二人の間に言葉はなかった。
信じられなくて、信じたくなくて、私は下を向いたまま、いつもの公園を通り過ぎた。

ふと、右手に暖かいものが触れた。

それは夫の手だった。
暖かくて、大きくて、すべてを包み込んでくれそうな、そんな手のひら。
それが今、私の手を包んでいた。

あぁ、
と、私は思い出す。
初めてデートをした時の、彼の手の暖かさ。
私が落ち込んでいた時の、彼の手の温もり。
ウェディングドレスの私の手を握る、タキシード姿の彼。


そっか、手、こんなに優しかったんだ…
しばらく握ることがなくて、忘れていたよ。


だってここには、


{二人の間にはいつも、リョウタがいた。}




リョウタはもういない。
実感した途端、悲しみが、虚しさが、溢れ出して止まらなくて、私は立ち止まる。

夫の差し出したハンカチで、自分が泣いているのだとわかった。
夫との距離は縮まっても、私の胸には埋まることのない隙間ができてしまった。
そのどこまでも純粋な喪失感で、私は涙を流した。

もう三人で歩くことはないのだと、声を出さずに泣いた。




しーあわっせはー 
あーるいーてこーないー


唐突に耳に入ってきたのは、夫の声だった。
三人でよく歌ったあの歌を、途切れがちに、しぼりだすように、夫は歌っていた。


だーからあるいていくんだねっ!


リョウタの声だ。
そんなはずはないはずなのに、なぜだか私は確信していた。





そっか。そうだよね。リョウタはいつでもここにいるんだよね。

ふと自分の手を見ると、そこに暖かいものが触れた気がした。


一日一歩、三日で三歩。

自分に言い聞かせるようにつぶやく。

そうだよ、私だって、前を向かなきゃいけないんだ。

「ショウくん、」
思わず声に出していた。
夫がゆっくりとこちらを向く。

「がんばらなきゃね。」

何を、なんて言わずとも、夫ははっきりと頷いた。

今度は私から手を握り、歩き出す。



さーんぽすすんで にっほすっすむー!


またもやリョウタの笑い声が聞こえた気がして、そこは下がるでしょ、と小さくささやく。

どうしたの、と振り向く夫に、なんでもない、と首を振り、また一歩前へ進む。


リョウタ、ありがとう。そして、さようなら。

私も、ショウくんも、少しずつでも、一歩ずつでも、進んでいくから。
リョウタの届かなかった毎日を、一歩ずつ。




公園のブランコが、風もないのに揺れていた。

背伸びしたっていいよ。「15ブックマーク」
伸び盛りの弟を持つ私は、家の柱に傷をつけては彼の身長を記録していた。

弟「ちぇっ、まだ全然だぁ。」

1ヶ月で5cmも伸びれば大したものだと思ったが、
弟はなんだか不満そうである。

私「じゃあこれ、おまけね。」

そう言って、私が弟の身長より少し高い場所に印をつけると、

弟は途端に怒り出した。

それは私の優しさだよって言っても聞いてくれない…一体なぜだろう??
20年04月01日 21:28
【ウミガメのスープ】 [弥七]

Special Thanks!!! さなめ。さん^ ^




解説を見る
<解説>
簡易解答:ただ姉の身長を追い越す瞬間が見たいなら、お互い背中を合わせればそれでいい。弟は柱に私の身長を刻んだことを、「もうこの家に帰ってくることはない」という意思表示だと捉えたから。


春から県外の大学へ進学する私。家族との別れに寂しさを覚えつつ、弟が私の身長を追い越す瞬間が見られるように、【私の身長】を柱に刻んだ。すると弟は「寂しいっていう割に、帰ってくる気ないじゃん!」と怒り始めたのだった。

ーーーーーーーーーー

もし、もしも。

私が今抱いている感情が、私一人だけのものだとしたら。

それはとても、悲しいことだと思う。








「まあ、そうですよね。七海先輩くらいの成績だったら、進学しますよねー。」
「七海ちゃん、よく勉強してたもんね。」
「県外の大学だって??いいなー頭の良い子は。」





ああ、そういうもんなのかなって。


「ーーー私、東京の大学に行くんだ。」


私の一世一代の決心は、そうして、すんなりと周囲の人に受け入れられていった。




それは、家族に対しても同じことだ。

三者面談の日。

読み上げられた進路希望に、母は何も言わずただ頷いてくれた。家に帰って父にそのことを話すと、「お金のことは心配するな」と、たった一言交わしただけで終わった。




先生に何度教えられたことか。

「進路はよく考えること」「よく悩んで選ぶこと」




誰に勧められたわけでもない。自分の好きなものを選んで、絞って。その末に、私の将来はこれしかないと決めた。

私の中で、とても大切な決断だったのに。

しかしその結末は、あまりにあっさりしすぎていた。




どうして?

どうしてそんなにすっきりはっきり、感情を入れ替えれるのだろう??

私には理解できない。

だって、私が東京の大学に行くということは、つまりーーー











「……姉ちゃん!!聞いてんの!?」


はっと我に帰る。


私は家の柱の前でぼうっと立ち尽くしていた。隣では弟が壁に張り付いたまま私に向かって話しかけている。

「姉ちゃん、まだ??」
「ああ、ごめんね、すぐやるから。」

私は弟の身長に合わせて柱に傷をつけた。過去の自分とを交互に見比べながら、弟は不満そうに鼻を鳴らした。

「ちぇっ、まだ全然だぁ。」

1ヶ月で5cmも伸びれば大したものだと思ったが。それでも物足りないのだろうか??

台所にいた母がひょっこりと顔を出す。

「はあ〜男の子の成長期ってすごいね〜。制服、もっと大きいサイズにしておけばよかったね〜。」
「やだよ!だぼだぼしてダサいじゃん!!」
「新しく買うよりいいでしょうが。」

ああケンカしてる。いつもの家族風景だ。

私がいなくとも、きっと何も変わらないだろう。

「…今に七海の身長、追い越しちゃうかもしれないねえ。」



私は柱の方を振り返った。

不揃いに重ねられた、弟の成長の記録。なんとも誇らしく、そして悲しいのだろう。

私の身長を弟が越す瞬間を、私は見ることができないのだから。

強烈な寂しさに背中を押されて、私は再びナイフの柄を強く握った。

カリカリ…



「姉ちゃん、なにしてるの??」

「これ、おまけね。これでいつでも、比べられるでしょ。」



私は自分の身長を測って、柱に傷をつけた。



「やめろよ。」



急に肩を掴まれたので、私の傷は大きく曲がってしまった。誰の声だろうと思うくらい、真剣な口調で弟は言った。

「姉ちゃんって、ほんとずるいわ。試すようなことばっかりして。」

「え?」

「急に東京の大学に行くって言うから、みんなすげー心配して。

でも姉ちゃんが決めたことだから、そんな悲しい顔しないようにしゃんとしてたのに…。母ちゃんだって言ってたよ。ほんとに一人で生活できるのかって、寂しくなるって言ってたし。

でも姉ちゃんからは『寂しい』なんて一言も聞かなかった!!」

「……」

「俺、ずっと一緒だからまだわかんないけど、姉ちゃんがいなくなったらきっと寂しいと思う。けど、けどさ!!寂しいなら、帰って来ればいいじゃんか、戻って来ればいいじゃんか!」

「……ごめん。」

私は下を向いて、ただ謝った。涙が出るかと思ったからだ。

「謝ってばっかりだ、姉ちゃんなんて、もう知らねえよ。」



こんな調子で東京でやっていけるのかねえ、と母親のようなことを言った。そして、柱の方にぐいと私を押し付けた。もうすぐ私を追い越してしまう彼の身長が、ことさら大きく見えた。

「もういい、姉ちゃんは、東京で大人しく勉強でもしてろ。







……俺が迎えに行ってやるから待っとけ。」



いつの間に

人間というものは、人知れず成長してゆくものなのだろう。

随分と男らしくなったなぁ、なんて思いながら

こくりと、私は頷いた。








柱の傷は、おとどしの。








窓辺からそよそよとやってくる柔らかな風を感じながら、私はベッドの上でうんと背伸びをして周囲を見渡した。

私だけのテレビに、私だけの本棚。ソファの上のパーカーは、誰に片付けられることもなく無造作に、おとなしくそこにかけられている。

目覚まし時計が鳴る前なんて…全く行儀の良い時間に起きてしまったものだ。


(……どうして目が覚めてしまったのだろう?)


耳をすますと、繰り返し鳴っているインターフォンの音を、寝ぼけた私の頭がやっと認知した。


(ああ、なるほどね。)


私はスキップしながらリビングを後にした。

そう、きっとこれは、私の待ち望んでいた春の訪れ。

しかし決して悟られないようにどうぞ、と少しぶっきらぼうに玄関の扉を開ける。

「久しぶり、姉ちゃん。









やっと迎えに来たよ^ ^」

不意に口元が緩んだのを、私はちゃんと隠せただろうか??

いてっ、

などと言いながら戸枠に頭をぶつける彼が、小憎らしいほど愛らしかった。

(おしまい)(この物語は全てフィクションです。)